AIと衛星が支える「スマート防災」の現在地

2026年7月21日

都市や地域における災害対応は、気候変動による極端気象の増加やインフラ老朽化、人口構造の変化を背景に、従来の経験則だけでは対応が難しくなっている。こうした中で注目されているのが、AIを活用して気象データや河川水位、地盤、交通、人流、SNS、監視カメラ画像、衛星画像などを統合し、被害の発生確率や拡大範囲、避難の遅れを予測しながら、行政や住民の行動を支援する「スマート防災」だ。近年は、SNSを使った災害時の情報収集や避難支援などにも、AIが活用される事例が増えてきた。

SNSとAIチャットボットが担う災害時の情報収集と避難支援

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、防災・減災分野の課題である「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」(2023年3月末終了)において、AI技術を活用した津波や風水害における人的被害の軽減、災害対応機関の人手不足解消、迅速な災害対応などを目指した研究開発が推進された。

その成果の1つが、災害時にAIがLINEなどのSNS上で人間に代わって被災者と対話したり、被災状況を収集・分析する「防災チャットボット」の実装だ。産官学が協力して先端技術を活用しながら防災・減災に関わる課題解決を目指す「AI防災協議会」では、防災科学技術研究所とNICT、ウェザーニューズが共同で防災チャットボット「SOCDA」を開発している。SOCDAに寄せられた住民の被災情報はAIが自動分析し、被害の種類や地域ごとにフィルタリングした上で共有され、どの地域でどのような被害が起き、どのような対応が求められるかが一目で分かる形で可視化される。

SOCDAはすでに全国の複数の自治体で活用され、さまざまな事例が公開されている。例えば、東日本大震災を経験した福島県南相馬市では、2021年2月13日のマグニチュード7.3の地震発生直後に、SOCDAを活用して情報収集を行った。それによって、停電や断水などの情報が市民から寄せられ、避難情報や避難所開設情報をLINEで配信した。

図1 AIを活用した防災チャットボット「SOCDA」が災害時の情報を自動的に収集(出典:NICTの公開資料より引用) イメージ
図1 AIを活用した防災チャットボット「SOCDA」が災害時の情報を自動的に収集(出典:NICTの公開資料より引用)

SAR衛星画像とLLMが被災状況の把握を加速

一方で、日本では地震や集中豪雨などによる大規模な災害が発生した際に、被害状況を速やかに把握する手段として、人工衛星の観測画像の活用が期待されている。特に、合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)は光学センサーと異なり電波を使って地表を観測するため、昼夜を問わず、また天候の影響を受けることなく撮影できる。そのため、防災・減災において非常に有効だ。

例えば、森林火災で周囲に煙が充満していたり、大雨による洪水で被災地が雲に覆われていたりする場合でも、SARであれば煙や雲の影響を受けにくく、地表の状況を把握できる。高分解能の観測では、数十センチメートル級で捉えられる場合もある。だが、SAR画像は一般的な写真と異なるため、超音波検査画像を医師でなければ読み解けないように、SAR画像を読み解くには専門的な訓練が必要になる。そこで、人間の代わりにAIにSAR画像を理解させ、自然言語でSAR画像の情報を引き出す研究が進んでいる。

NECが開発した「衛星画像解析×LLMシステム」は、専門知識がなくてもチャット形式でAIと対話しながら幅広い情報が得られる。例えば、大規模地震の発生後に「市全体の被災状況を教えて」と尋ねると、地震前後の状況変化を要約した情報を提供し、「被害が最も大きな地域を教えて」との質問には、理由とともに具体的な地域を示してくれる。

図2 AIと会話しながらSAR画像の解析結果が得られる「衛星画像解析×LLMシステム」(出典:NECの発表資料より引用) イメージ
図2 AIと会話しながらSAR画像の解析結果が得られる「衛星画像解析×LLMシステム」(出典:NECの発表資料より引用)

スマート防災普及の鍵はフェイルセーフ設計と情報の公平性

このように、スマート防災の導入が進む一方で、今後の実装や普及にはいくつかの課題がある。まずは、停電や通信障害、センサー故障を前提にしたフェイルセーフ設計の構築だ。災害時には真っ先に、防災システムが被害を受ける可能性が高いからだ。予測結果の説明可能性と責任分担についても、住民の避難や道路閉鎖の判断にAIを使う以上、行政は「なぜその判断になったのか」を説明できなければならない。

また、デジタルデバイドも見逃せない。高齢者、外国人、観光客、障害者など、情報取得の条件が異なる人々に同時に届く仕組みでなければ、スマート防災はかえって格差を広げる可能性がある。そこには、多言語対応や音声案内、紙や対面との併用、オフライン時の情報伝達など、ローテクを含む重層的な設計が必要になる。防災は効率性だけでなく、公平性と包摂性が問われることも認識しておかなければならない。

今後、衛星観測の高頻度化やIoTセンサーの低価格化、生成AIによる状況要約、デジタルツインの高度化が進めば、災害の兆候把握から避難、復旧計画までをより短時間でつなげられるようになる。特に衛星からの監視は、災害時に現場で影響を受けにくいので、大規模かつ継続的な監視で重要性を増すだろう。今後のスマート防災では、最新技術を導入すること以上に、どのような災害にも耐えうる仕組みをどう根づかせるかが焦点となるかもしれない。

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ