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気象予測はAIでどう変わるのか 欧米モデルと日本の防災活用
目次
気象予測は長らく、スーパーコンピューターで大気の物理方程式を解く「数値予報」を中心に発展してきた。気温、気圧、風、湿度、海面水温など膨大な観測データを取り込み、数時間後から数日後の大気の状態を計算する仕組みだ。近年は、そこにAIを組み合わせる動きが急速に広がっている。AIは過去の気象データから大気の変化パターンを学習し、台風の進路、豪雨の発生可能性、短時間の降水域の移動などを高速に予測する。
中期予報の常識を変えつつある欧米のAI気象モデル
海外では、AIによる気象予測の代表的な事例として、Google DeepMindの「WeatherNext 2」や欧州中期予報センターの「AIFS(Artificial Intelligence Forecasting System)」、NVIDIAの「Earth-2」などが注目されている。2025年11月17日に発表された「WeatherNext 2」は、Google DeepMindとGoogle Researchが開発した予報モデルで、1つの予報結果だけではなく数百通りの可能性(シナリオ)を生成する。これによって、気象機関が複数のシナリオを比較しながら判断できる環境を提供している。「AIFS」は欧州中期予報センター(ECMWF)が2025年2月25日に運用を開始したシステムで、研究成果を実際の予報業務に近い形で公開・検証している。
NVIDIAは生成AI基盤モデルcBottle(Climate in a Bottle)によって、キロメートルの解像度で地球規模の気候をシミュレートしている。「Earth-2」はこの基盤モデルの一部として、日時や海面水温などの入力に基づいて現実に近い大気状態を生成し、地球の複雑な自然システムを理解して気象を予測する。
欧米のAI気象モデルは、AIを単独の予測装置として使うのではなく、従来の数値予報やアンサンブル予報、衛星観測、予報官の判断と組み合わせて中期予報を行う方向で導入が進んでいるようだ。また、気象機関がAIモデルを使う場合、単に精度が高いだけでは不十分で、「予報官が根拠を確認できること」「従来モデルとの違いを比較できること」「異常値が出たときに運用上の判断ができること」が求められている。一方で、AIは計算が速く、多数のシナリオを短時間で出せる可能性があるものの、学習データが少ない極端現象では誤差が大きくなるという懸念がある。

(図表1)NVIDIAの「Earth-2」の機能イメージ(出典:NVIDIAのYouTube動画より抜粋)
豪雨・線状降水帯対策でAI活用を進める日本の気象予測
広大な大陸を含む欧米と異なり、海に囲まれた日本では、台風、梅雨前線、線状降水帯、ゲリラ豪雨、大雪など、短時間で生活や交通に大きな影響を与える気象現象が多い。そのため、AIによる気象予測にも、欧米のような中期予報だけではなく、数十分から数時間先の局地的な雨をいかに早く把握するかという課題がある。
特に重要なのが、線状降水帯の予測だ。線状降水帯は、発達した積乱雲が同じ地域に次々と流れ込み、長時間にわたって大雨をもたらす現象で、河川の氾濫や土砂災害の危険を高める。発生場所や発生時刻を正確に予測することは難しく、わずかな風向や水蒸気量の違いが結果を大きく変える。こうした不確実性に対応するため、日本では観測網の強化や高解像度モデルの改善に加え、AIを用いて過去の豪雨事例から危険な気象パターンを抽出する研究が進められている。
理化学研究所や大学、気象関連の研究機関では、スーパーコンピューター「富岳」などを活用し、大量のシミュレーション結果や観測データをAIに学習させる取り組みが行われている。例えば、数値予報モデルが出した複数の予測シナリオをAIが解析し、豪雨が発生しやすい領域や時間帯を抽出することで、予報官の判断を支援することが期待されている。AIは膨大なデータから人間が見落としやすい兆候を見つけることに強みがあり、災害級の雨が発生する前のリスク把握に役立つ可能性がある。

(図2)スーパーコンピューター「富岳」による2024年台風10号の台風全域のシミュレーション結果(出典:富士通のプレスリリースより引用)
民間気象会社が提供するナウキャストサービス
国内では、すでにAI気象予測の実装が分かりやすい形で進んでいる領域がある。その1つが、ウェザーニュースなどといった民間気象会社によるナウキャストサービスだ。ナウキャストサービスは、現在の雨雲や雷、風の状況をもとに、数分後から数時間後の天気をAIを活用して細かく予測する。通勤、配送、建設、イベント運営、農業、スポーツ観戦など、短時間先の天気が判断に直結する場面では、広域の天気予報よりも「自分がいる場所で、何分後に雨が降るのか」という情報の価値が高い。
NVIDIAも「Earth-2 Nowcasting」と呼ばれるナウキャストサービスの機能を提供しているが、ウェザーニュースが提供するナウキャストサービス「ウェザーリポート」は、利用者からの天気報告も観測データの一部として活用する仕組みだ。
「ウェザーリポート」は、日本のように局地的な天気変化が多い地域と相性がよい。AIがレーダー画像や投稿情報を解析し、雨の降り始めや強雨の接近を通知できれば、傘の携帯だけでなく、屋外作業の中断判断、イベントの避難誘導、配送ルートの変更にも役立つ。

(図3)ウェザーニュースが提供する、利用者からの天気報告を活用するナウキャストサービス「ウェザーリポート」の投稿手順(出典:ウェザーニュースのホームページより引用)
社会インフラや企業活動のリスク対策にもつながるAI気象予測
さらに、日本では企業向けにも、AI気象予測の活用が広がっている。小売業では気温や降水確率から商品の需要を予測し、食品ロスや欠品を減らす取り組みが行われている。電力会社では、気温や日射量、風況の予測が、電力需要や再生可能エネルギーの発電量予測に関わる。鉄道や道路管理では、大雨や大雪、強風を早めに把握することで、運休判断や除雪体制、通行規制の準備につなげられる。
このように、日本における気象予測AIは、天気を当てる技術であると同時に、地域の天候災害や社会インフラ、企業活動のリスク対策につながる技術になりつつある。
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