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防災に向けた橋梁点検や災害時の被災状況調査でのドローン活用を検討する江東区

2022年9月26日
話し手
  • 江東区 土木部 道路課
    課長
  • 大野 俊明
  • 江東区 土木部 道路課 工務係
    係長
  • 葉佐 佳司

災害対応におけるドローンの活用については、近年頻発化している大規模水害や2021年7月に発生した熱海市土石流災害においても、その有効性が改めて確認された。消防庁によると、2021年6月時点で全国の724消防本部のうち、383本部がドローンを所持して活用しているという。こうした取り組みは自治体にも広がっているが、東京都江東区では災害に備えた橋梁点検や、災害後の被害状況調査などにもドローンを活用する検討を進めている。そうした取り組みの概要について、江東区土木部道路課課長大野俊明氏と、江東区土木部道路課工務係 係長葉佐佳司氏からお話しを伺った。

年1回の橋梁点検でドローンの活用を検討

東京湾に面し、隅田川と荒川に挟まれた江東区は、大部分が江戸時代の埋め立て事業によって開拓された歴史があるため、東京23区の中でも特に川が多い区域だ。それらの川を渡るための橋も多く、江東区が管理している橋の数は81橋となっており、これらに関しては5年に1回の頻度での点検が国土交通省から義務付けられている。だが、近年は全国で台風などによる大災害が毎年のように発生しているため、さらに短周期での点検が求められ、そうした点検記録を蓄積しておくことが、水害や地震などで橋がダメージを受けた際に速やかな復旧に繋がると考えられる。

そこで、江東区では橋梁点検をより効率的に実施するためのドローン活用について、検討を進めている。その経緯について大野氏は、「2018年に芝浦工業大学の教授がメインとなって、橋梁点検におけるドローン活用の勉強会を実施しました」と振り返る。「国によって義務づけられた5年に1回の橋梁点検は外部委託しているのですが、それとは別に江東区では職員による橋梁点検を毎年目視で行っています。その点検にドローンを活用できないか、導入するとどのようなメリットがあるのかなどについて、検討をしているところです」

実際にドローンを橋梁点検に取り入れてみると、どのようなメリットが得られると考えられているのだろうか。まだ検証の段階ではあるが、江東区としてはドローンの活用によって、人間が入っていけない箇所や目視できない箇所も点検できるようになると考えている。「例えば、橋脚の上で橋桁を支えている支承(ししょう)と呼ばれる部分などは、陸上からでも橋の上からでも目視では確認できません。そういうところにドローンが入っていき、カメラで状態を撮影できることが大きなメリットになると考えています」(大野氏)。

その際に重要なポイントが、高精細なカメラを利用した鮮明な画像の取得であるという。ただ、画像自体は撮影後にじっくり確認するので、5Gなどを活用したリアルタイム通信については、有効性を検討中だという。他にも、ドローンで撮影することで、どのくらい点検作業の時間が短縮できるのかについても、「目視でぱっと見てしまえば確認できる点検箇所もあるので、従来の方法とドローンを活用する方法のどちらが効率的なのかに関しても、いろいろと研究しているところです」(大野氏)。

災害後の被害状況調査にもドローン活用を検討

一方、江東区では災害に備えた橋梁点検だけではなく、実際に災害が起きた後に必要になる被災状況調査にもドローンの活用を検討している。その効果を確認するため、2022年3月23日にミラテクドローンおよびミライト・テクノロジーズ(現ミライト・ワン)のサポートのもと、区内に災害が発生した場合の土木施設(橋梁、道路、など)の被災状況を、ドローンを活用して調査する訓練を行った(写真1)。

(写真1)江東区とミラテクドローンおよびミライト・テクノロジーズによるドローンを活用した被害状況調査訓練の様子(出典:ミラテクドローンのプレスリリースより引用) イメージ
(写真1)江東区とミラテクドローンおよびミライト・テクノロジーズによるドローンを活用した被害状況調査訓練の様子
(出典:ミラテクドローンのプレスリリースより引用)

江東区とミライト・テクノロジーズは、災害時に土木施設の安全調査および復旧を迅速に行うために、「災害時における無人航空機を活用した支援協力に関する協定」を2020年7月に締結している。葉佐氏は、「芝浦工業大学が行った勉強会にミライト・テクノロジーズさんも参加されていて、その際にドローンを災害時にも活用できないかという話をしました」と、協定締結のきっかけを説明した。

協定によれば、地震など大規模災害の発生時にはミライト・テクノロジーズとミラテクドローンが、共に江東区からの要請に基づいて出動することになっている。その際、両社はドローンを活用して道路や橋梁を中心とした区内の土木施設を点検し、被災状況を早期に把握して江東区に報告する。今回の訓練では、江東区内全域に災害が発生したと想定し、旧中川河川敷上空からドローンを飛び立たせて、周辺エリア全体および橋梁を中心とした被災状況を把握した(写真2)。

(写真2)旧中川河川敷から飛び立ったドローンによる訓練中の撮影画像(出典:ミラテクドローンのプレスリリースより引用) イメージ
(写真2)旧中川河川敷から飛び立ったドローンによる訓練中の撮影画像
(出典:ミラテクドローンのプレスリリースより引用)

訓練中にドローンで撮影された映像は、江東区役所へリアルタイムで中継された。その際、上空150メートルからの撮影映像を通じて、数百メートル離れた橋梁や道路の被害状況の把握ができたという。「同じドローン活用でも、災害時対応の場合は事前の橋梁点検とは異なり、いかにリアルタイムに鮮明な映像が送れるかが必須条件でした。また、被害状況の把握では、構造物の亀裂や歪みよりも、実際にその橋での通行が可能かどうかを知ることが重要です。救急車が通れる状態なのか、安全確保のために直ちに通行止めしなければならない橋はないのかなど、ドローンの活用では初期点検に重点を置いています」(葉佐氏)。

今回の訓練の成果について、葉佐氏は「私たちが想像できていなかったことや、知らなかったことがいろいろと体験できたことが、非常に大きな成果であると感じています」と語る。「人間による点検では、目線の高さで見た範囲しかまで判断できません。それが、ドローンによって高い位置から俯瞰的にものが見えるようになると、構造物の破損も見つけられるし、遠方で火災が起きているとか、煙が上がっているなど、広範囲まで把握できるようになります。そうした情報が、想像していた以上に鮮明に把握できることが分かりました。また、人が入っていけないような被災現場の状況が把握できるという面でも、非常に効果があると考えています」(葉佐氏)。

訓練と災害時の乖離をどう埋めるのかなど課題は山積

今回の訓練では、事前に許可を取ってドローンを飛ばせる範囲に制限があった。そのため、映像が定点観測になってしまい、実際の災害時での対応との乖離を感じたという。「災害時には、緊急対応でいろいろな場所でドローンを飛ばす必要が出てきますし、そのまま移動もします。そうした際に、現場がどのように見えるのかが訓練では確認できませんでした。また、川や橋梁ならばカメラをズームして状況を把握できるのですが、道路の把握になってくるとほとんどが建物に隠れて見えません。実際にそこが通れる状況であるか否かも、ドローンが飛び回れないと判断できないし、災害時に何が障害になるのかなども不明です。そうした乖離をどう埋めていくのかは、今後の課題です」(葉佐氏)。

また、実際にドローンを操作している現場側と、映像を監視しながら指示を出す本部側との通信についても、課題があるという。「訓練でも、若干通信が途切れたことが何回かありました。災害時の混乱において、どう通信を確保すればいいのかを決めておいたり、通信できなかった場合には、あらかじめどことどこをドローンで観察し、その状況をどうやって本部に報告するのかを決めておくことも課題と考えています」(葉佐氏)。

他にも、実際に地震などの災害が起きた際に、職員が車で現場近くまでドローンを運んで飛ばすのか、あるいは区役所の本庁にメインのドローンを持ってきて飛ばすのかなど、まだまだ多くのことを決めておかなければならない。「区の職員も、今はドローンに関する知識が乏しいので、まずドローンについての基礎知識を学ぶところから始まり、職員によるドローンの操作取得が必要なのかなども検討していかなければと思っています」(大野氏)。

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