エネルギーとICTの融合がGX促進の鍵になる

2023年1月30日
話し手
  • NTTアノードエナジー株式会社
    代表取締役社長 社長執行役員
  • 岸本 照之

ICT技術の進化は、今後も止まることはないだろう。一方で、ICTの活用が拡大するにつれ、電力消費も大きく伸びていくことが予想され、環境への影響が心配されている。GXを進めていく上では、そういった課題解決にも取り組む必要がある。今回は、NTTアノードエナジーの代表取締役社長 岸本照之氏に、通信の分野からICTを支えるNTTグループの中で、どのようにGXの課題に取り組んでいこうとしているのかについて伺った。

GXのポイントはエネルギーとICTの融合

──NTTアノードエナジーはどういった事業を行う会社なのでしょうか。

岸本 NTTアノードエナジーは、全国に設置されたNTTグループの通信ビルの資産やICT技術、直流給電技術などを活用することでスマートエネルギー事業を展開し、「脱炭素社会」や「エネルギーの地産地消」を実現する会社です。

通信分野におけるCO2の排出量は、このままではクラウドや大容量・高速通信によってうなぎ登り増えていくことが予想されます。NTTグループとしてその課題を解決していくため、2019年9月に新たな環境エネルギービジョンを発表させていただきました。そのソリューションの1つが、新しいイノベーション技術で環境対策に貢献するIOWN構想です。それ以外の部分については、再生可能エネルギーを使うことで解決しようとしています。

実は、NTTグループは日本全体の1%の電力を消費しています。このような大口需要家自らが、模範を示すように環境エネルギービジョンを宣言することでGXを実現し、日本全体の牽引役になって、他の企業や自治体などに対してもスマートエネルギーソリューションを展開していくことが重要です。そういう目標を掲げ、NTTグループ全体のエネルギーの構築から保守運用、さらにはスマートエネルギーソリューションを提供する中心役を担うことが、NTTアノードエナジーの役割だと考えています。

(図1)NTTグループが新たな環境エネルギービジョンの中で発表した、温室効果ガス排出量の削減イメージ イメージ
(図1)NTTグループが新たな環境エネルギービジョンの中で発表した、温室効果ガス排出量の削減イメージ

──エネルギー業界では、どのようにGXが進んでいくのでしょうか。

岸本 日本はエネルギーの燃料の自給率は12%くらいしかありません。このままでは、さまざまな国際情勢によって燃料費が高騰すると貿易赤字になり、製造業などの力が弱まり日本全体が衰退してしまいます。そういった状況にどう対応するのかも、日本が抱える課題の一つです。それに加えて、エネルギー業界全体のグリーン化をどうするのか、GXをどう進めていくのかといった環境対策の課題への対応も求められています。

ここでのポイントは、電力、すなわちエネルギーとICTが融合する時代になってきたことです。例えば、スマートメーターで電力消費などを点検する際、現在は30分ごとにデータが送られていますが、今後は1分ごとにデータが送られるようになるなど、スマートメーター自身がどんどん高度化していきます。スマートメーターはIoT端末なので、LTEや5Gなどの通信を利用するので、エネルギーとICTが融合しながらデータ活用されていくのです。

結局の所、そうやって得られたデジタルデータをどうハンドリングしていくかが重要で、そこではEMS(エネルギー・マネジメント・システム)を活用してICTによってエネルギーを管理し、無駄な電力の消費を抑えます。例えば、家に太陽光パネルと蓄電池、EVカーがあったとすれば、それらの電力の利用状況をスマートメーターで管理します。それによって、時間帯に応じて太陽光パネルからの電力を家庭で使ったり、EVに充電したり、余った電気を蓄電池に蓄えるなど最適化していくことが求められます。

分散化で進む地産地消のエネルギー消費

──エネルギーの地産地消も、最近は注目されるようになってきました。

岸本 従来は石炭を燃やす火力発電やダムを使った水力発電など集中型の設備で行っていた発電事業も、今では太陽光や風力、地熱、バイオ熱などといった分散型の設備でも行われるようになってきました。このように発電設備が分散化されてくると、地域ごとにさまざまな小規模の発電所が作られるようになります。例えば、自治体の清掃工場でも発電設備を持つなど、その地域の特徴を生かした発電設備が散在してきます。これを地域グリッドという形で、どうまとめていくかが重要になります。

地元で作った電気は、産業振興の面からも送電ロスのない地元で使った方がよいでしょう。今、環境省では脱炭素に取り組む自治体の先行事例を、少なくとも100ヵ所選定しようとしています。その第2回の選考に、NTTアノードエナジーが共同提案や協力企業等となる、栃木県宇都宮市、山口県山口市、岩手県宮古市、愛知県岡崎市、千葉県千葉市という5つの自治体が採択されました。

──それらの自治体では、どういった取り組みをしているのでしょうか。

岸本 例えば宇都宮市の場合、2023年8月の開業を目指し、LRTによる路面電車事業の準備を進めています。そこでは、宇都宮市で作られた再生可能エネルギーをLRTの運行に活用することで、モビリティをグリーン化する取り組みを進めています。

地産でエネルギーを作るだけでは、街全体をグリーン化することはできません。地元で作った電気をモビリティで運用したり、農業だとビニールハウスなどで活用する。他にも、森が多い地域ならば伐採した材木を使ってバイオマス発電をしたり、それによって作られた熱源を陸上養殖に活用して山で魚を育てるなど、いかにエネルギーとそれ以外の産業を結びつけるかが重要です。それによって、地域に新しい産業が生まれ雇用も促進される。このように、エネルギーと他産業を結びつけるのがICTソリューションの役割であり、そこについてはNTTグループが一丸となって取り組んでいきます。

(図2)宇都宮市のEMSを活用したLRT事業のイメージ イメージ
(図2)宇都宮市のEMSを活用したLRT事業のイメージ

──昨今話題になっている水素の活用についても、NTTアノードエナジーさんでなにか取り組みを進めているのでしょうか。

岸本 昨年の7月に、既設配管を活用した水素パイプラインの輸送モデルの安全対策に関する取り組みについて発表しました。すでに地中にある通信のための配管を、水素パイプラインとして利用するという計画なのですが、水素をタンクローリーで運ぶと大きなコスト負担が生じます。パイプラインによってその課題が解決できれば、都市部だけでなく地方にも水素ステーションが作られ、水素自動車などの普及も進んでいくでしょう。

とはいえ、実用化に際しては安全対策の確立が必要なので、現在は各種技術データの取得や課題の抽出などによって安全対策を検証する取り組みを実施しています。

(図3)通信の既設配管を活用した水素パイプラインの事業イメージ イメージ
(図3)通信の既設配管を活用した水素パイプラインの事業イメージ

GXでイノベーションを起こすプラットフォームを確立

──どのような環境が整っていけば、GXでもイノベーションが起きるようになるのでしょうか。

岸本 昨今はいろいろなメディアで、太陽光発電や風力発電、蓄電池などに関するニュースが取り上げられていますが、スタートアップだけでなくこれまで発電事業に関わってこなかったさまざまな企業も、新事業にチャレンジしようとしています。そこでは、電気を作るだけでなく、電気を作る過程で出てきたさまざまなデジタルデータをどう活用していくかが、さまざまなレイヤーごとに求められてくるでしょう。

そうしたオープンイノベーションの可能性について、NTTアノードエナジーとしてもアジャイルにスピード感を持って取り組んでいくことが重要だと感じています。エネルギー起点で、スマートエネルギーのソリューションをどれだけ商材として揃えていくか。それらを、各地域の中でプラットフォームとして提供できれば、GXに関わるイノベーションがいろいろと起きてくるのではないでしょうか。

──そのプラットフォームを活用して、イノベーションに取り組む人たちも増えてくるでしょうね。

岸本 結局、自分のとこでしか使えないシステムを作るとガラパゴスになってしまいます。今では、いろいろなスタートアップの方がさまざまな取り組みを進めているので、GXのためのプラットフォームを用意しておけばそれらのシステムをつなげることもできるでしょう。

結局の所、誰か一人が勝って他が負けるのではなく、いろんなアイデアのGXソリューションが出てきて、それらを街やグリッド単位でどうつなぐかが重要です。その際に、エネルギーが循環して無駄に使われることがないようにしないといけない。そのためにも、エネルギーとICTが融合したEMSを使いながら全体をコントロールしなければならないのです。それが、結果的に地産地消につながっていくと思っています。

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