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専門家が指摘するスマートコミュニティにおける余剰電力活用のポイントとは?

2023年8月21日
話し手
  • 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部
    ENIC研究部門 上席研究員
  • 所 健一

甚大な自然災害が多発する中、企業や自治体は、SDGsの「気候変動」(温室効果ガスの削減)に対する取り組みに注力している。そんな中で、今、注目されているのが、再生可能エネルギーの利用を増やし、情報通信技術を使いながら、地域での効率的なエネルギー需給を目指す「スマートコミュニティ」の形成だ。

そこで、需要予測やエネルギー機器の最適運転計画・制御、スマートコミュニティモデルの活用を研究している電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員 所 健一(ところ けんいち)氏に、スマートコミュニティ形成に関する主なポイントを聞いた。

電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員 所 健一氏
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部
ENIC研究部門 上席研究員
所 健一氏

所氏は、電気学会において、スマートコミュニティモデルの活用・拡張調査専門委員会、計測自動制御学会では、スマーターワールド実現のための新たなシステムズアプローチの実展開を目指す調査研究会、日本オペレーションズ・リサーチ学会では、「エネルギーシステムの進化とOR」研究部会などに所属。

スマートコミュニティについて所氏は、「出力が不安定な再生可能エネルギーを、いかに有効活用していくかが重要だと考えています。その実現のためには、情報通信技術や蓄電技術(バッテリーなど)を活用する必要があります。ただし、バッテリーは高価なので、電気が余ったら何でもバッテリーに貯めれば良いということではありません。エネルギーマネジメント技術を使って、バッテリーの容量を有効活用して、省エネや節電、エネルギーの安定供給につなげることが大切です。こうしたコミュニティでの再生可能エネルギーの活用を実現するシステム技術を、産学連携で協力して開発していきましょう。というのが、委員会で研究を始めた背景になっています」と説明した。

スマートコミュニティとは(出典:電力中央研究所)
スマートコミュニティとは
(出典:電力中央研究所)

電気学会では、「スマートコミュニティモデル」を2012年から開発し、2015年からはスマートコミュニティモデルの活用・拡張について研究している。

所氏:スマートコミュニティを支えるシステム技術を評価する上では、自分たちに都合のいいデータを持ってきて評価するのではなく、共通の土台となるデータを使ってエネルギー消費量、CO2の排出量などの共通のベンチマークを算出できることが必要になります。そのために、スマートコミュニティモデルの開発に取り組みました。

「スマートコミュニティモデル」とは

「スマートコミュニティモデル」では、電力、ガス、水道、鉄道、産業、業務、家庭の7分野の相互作用を考慮した上で、スマートコミュニティ全体のエネルギーコスト、エネルギー消費量、CO2排出量などの基本的な評価が行える基本モデルを開発した。

スマートコミュニティモデル(出典:電力中央研究所)
スマートコミュニティモデル
(出典:電力中央研究所)

基本モデルはExcel上に実装し、モデルの利用者が各分野のエネルギー機器の起動・停止や起動時の出力などの決定変数の値を入力すると、それに対応したスマートコミュニティ全体でのエネルギーコスト、エネルギー消費量、CO2排出量が計算され、分析できるという。

産業/業務モデルは、工場やショッピングセンター、大型ビルなどがモデル化されている。例えば、産業モデルでは、ガスタービンやターボ冷凍機などの設備と工場の需要がモデル化されており、太陽光発電や蓄電池、デマンドレスポンス(消費者が賢く電力使用量を制御することで、電力需要を変化させること)の影響も考慮した上で電気、ガス、水のフローが再現できる。

産業/業務モデル(出典:電力中央研究所)
産業/業務モデル
(出典:電力中央研究所)

家庭モデルは、ヒートポンプ給湯機(エコキュート)、燃料電池、燃焼式給湯器がモデル化されており、これら機器の起動・停止タイミング、充電・放電タイミングなどの決定変数の値を入力すると、家庭の電気とガスの使用量が計算される。

家庭モデル(出典:電力中央研究所)
家庭モデル
(出典:電力中央研究所)

所氏:面白いと思うのは水処理モデルで、上下水道をうまく使うことで、余剰電力を吸収できないか検討ができるようになっています。浄水場できれいになった水は一度浄水池に貯められた後、高いところにある配水池にポンプアップされ、重力を利用して需要家に供給される形になっています。マンションも同じように屋上にタンクがあり、このタンクに水道水をポンプアップするという形になっている建物が多くあります。ポンプアップのタイミングを余剰電力の発生に合わせることができれば、配水池や屋上のタンクを、余剰電力を吸収する意味で畜電池のように使うことができます。

水処理モデル(出典:電力中央研究所)
水処理モデル
(出典:電力中央研究所)

オペレーションズ・リサーチ手法

情報通信技術を活用して余剰電力を活用できれば、コストをかけずにCO2の排出量を減らすことができるという。ただ、所氏によれば、情報通信技術を利用する上では、注意点もあるという。

情報通信技術には、IoTやセンサー、高速通信の5G、計算資源としてのディープラーニングや量子コンピューターなど、さまざまな選択肢がある。こうした技術を利用すれば、当然コストもかかってくる。

所氏:どこまで情報通信技術にコストをかけるのかを考えないといけないと思っています。情報通信技術を活用することで運転コストを半分にできたとしても、減らした分以上にセンサー代や通信、計算コストなど、計画策定に要するコストがかかってしまっては意味がありません。コミュニティでのエネルギーの活用を考えていく上では、運転コストと計画策定コストの合計が最小になる解を見つけていくことが重要です。ただし、情報通信技術の選択肢が増えているだけに、こうした解を見つけることがますます困難になっています。

この解決策の一つとして、オペレーションズ・リサーチのモデリングと言われる手法の適用が考えられるという。これは厳密に最適な解を見つけようとするのではなく、対象とするものの性質を抽出し、それを簡略化したような抽象的な事象、数式、模型などに置き換え解いていく手法だという。

オペレーションズ・リサーチ(出典:電力中央研究所)
オペレーションズ・リサーチ
(出典:電力中央研究所)
モデリングにより求めた計画の上界値と、モデリングにより求めた計画の下界値の差がIT投資にかけられる費用の上限になる(出典:電力中央研究所)
モデリングにより求めた計画の上界値と、モデリングにより求めた計画の下界値の差がIT投資にかけられる費用の上限になる
(出典:電力中央研究所)

モデリングの具体例として、エコキュートのお湯に変換することで、太陽光発電の余剰電力を活用することを考える。このためにはエコキュートのタンクに、どれだけのお湯を貯めておくかが重要となる。タンクの空きが少なければ、少しの余剰電力しか吸収できない。一方、多くの余剰電力を吸収できるようタンクに貯めるお湯を少なくすると、湯切れが発生するリスクが高まる。余剰電力の活用と湯切れリスクのバランスを考えて、タンクに貯めるお湯の量を決定する必要がある。

余剰電力の活用を考えた運転計画(出典:電力中央研究所)
余剰電力の活用を考えた運転計画
(出典:電力中央研究所)

こうしたタンクに貯めておく最適なお湯の量を求める問題は、材料、仕掛品、製品の在庫管理問題に置き換えることができる。定量発注方式や定期発注方式など、すでに確立されている在庫問題の解法を応用することで、厳密な意味で最適な解とは限らないが、エコキュートのお湯の量の問題を簡単な計算で解くことができるということだ。

また、高圧契約の電力の基本料は最大電力によって決定されるので、高圧一括受電契約を結んでいる集合住宅では、最大電力を超えないように入居する各家庭のエコキュートの運転時間を制御することが考えられる。こうした各家庭のエコキュートの最適な運転時間を求める問題は、長方形詰め込み問題に置き換えることで、簡単な計算で解を求めることができるという。

余剰電力の活用を考えた運転計画(出典:電力中央研究所)
余剰電力の活用を考えた運転計画
(出典:電力中央研究所)

デジタルデバイトとデス・スパイラル問題

所氏は、コミュニティでのエネルギー活用では、デジタルデバイトとデス・スパイラルの問題を考慮する必要があると語った。

スマートコミュニティ内で余剰電力のP2P(ピアツーピア)取引が行われるようになると、情報機器を使いこなせない人が不利になる(デジタルデバイト)という問題が生じる可能性がある。また、太陽光発電が増え、電力会社の電気を利用しなくなる人が増えると電力会社の運用コストが上がり、これが電気料金に反映されることで、太陽光発電を設置できない人が不利になるというデス・スパイラルの問題が発生する可能性がある。

所氏は、これを取引ではなく、融通にすると解決の一つの手段になり得ると話す。

所氏:リアルタイムに電力を売り買いするのではなく、ある程度までの規模のコミュニティであれば、少し長い時間スパンで見て電気を貸し借りするとか、電気と熱とを交換する「エネエネ交換」であるとか「エネモノ交換」ということができてもいいと考えています。エネルギーは誰もが必ず使うものなので、何かをもらった対価として、エネルギーで払うというのがあってもいいと思います。金本位制ではなく、キロワット本位制のような感じで、地域通貨的な使い方をすることもできると思います。

日本発の新しいシステム(出典:電力中央研究所)
日本発の新しいシステム
(出典:電力中央研究所)

所氏は、こうした融通を基本とする考えは、日本発の新しいシステムになり得ると語った。元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子氏が語った「近い水、遠い水」という考え方だ。近い水は琵琶湖の水、遠い水は水道水だ。

かつては、琵琶湖の水を飲み水として取り入れ、洗いものなどにも利用していた。隣の家から流れでる水は、次の家の上水となるため、汚れものを流さないという暮らしの「節度」をつくりだしたという。

所氏:昔は、近い水をこのコミュニティでうまく使っていきましょうという文化がありました。それが遠い水である水道が普及したことによって、近い水をコミュニティで活用していく考えが薄れてしまっています。同じように近い電気、遠い電気ということで、コミュニティで近い電気の余剰電力を融通しながら使っていくという日本発のシステムを、世界に発信していくことができたらと考えています。

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