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「物流の2024年問題」の課題はドライバーの残業だけではない

2024年3月25日
話し手
  • 全日本トラック協会
  • 役員待遇企画部長
  • 星野 治彦

「物流の2024年問題」とは

2018年6月に働き方改革関連法が成立し、2019年4月より大企業から順次、改正労働基準法の時間外労働の上限規制が適用されることになった。これにより、月の残業時間は原則45時間、年360時間以内に抑えることが求められている。ただ、トラックドライバーなど、自動車の運転業務に関しては、5年間の猶予期間が与えられ、2024年4月から適用が開始される。

2024年4月からは、年間の時間外労働は960時間までとなり、輸送量の低下により経済活動や国民生活への影響が懸念されており、これがいわゆる「物流の2024年問題」と言われている。

NRIは「物流の2024年問題」の影響について、2023年1月のNRIメディアフォーラムにおいて、今のままでは2030年には2015年比で全国の約35%の荷物が運べなくなり、東北、四国といった地方部ではその割合が40%を超える懸念があるというレポートを発表した。(「トラックドライバー不足時代における輸配送のあり方」)。

それでは、2024年問題に対して、どういった対応をすべきなのか、全日本トラック協会 役員待遇企画部長 星野 治彦(ほしの はるひこ)氏に話を聞いた。同協会には、緑ナンバーの営業用トラック約6万3000台のうち、約8割が加盟しているという。

前提として、運賃・料金の適正化が必要

全日本トラック協会 役員待遇企画部長 星野 治彦氏
全日本トラック協会 役員待遇企画部長 星野 治彦氏

まず、星野氏に、960時間に上限が設定されたことに対する見解を聞いた。

星野氏:一般労働者の上限は、特別な場合でも720時間になっていて、本来であれば、そこに合わせるべきなのかもしれません。ただ、業界の状況を考えれば、いきなり720時間にすると、影響が大きいため猶予期間が与えられました。当協会が昨年行ったアンケート調査では、3割近くの事業者が、960時間を超えているドライバーが存在すると回答しました。残業時間は、トラック事業者の努力で減るものではなく、荷主やその先の消費者の理解がなければ、減らせるものではないと思います。

星野氏が語る荷主や消費者の理解というのは、運賃や労働環境の改善に対するものだ。

星野氏:時間外労働が減れば、ドライバーの賃金が下がってくるので、そこを気にするドライバーは非常に多いです。これを解決するためには、昨今の物価高を考えれば時間外労働を減らしても、今の賃金水準よりも増えるようにしていかなければならないと思っています。そのためには、運賃を相当上げていかなければなりませんが、ハードルは高いと思います。ただ、これをやらないと、ドライバーの確保が益々難しくなります。

「物流の2024年問題」については、荷主の理解は少しずつ広がっているが、消費者の理解は進んでいないと星野氏は語る。

星野氏:一般の消費者と物流の接点は、引越しと宅配くらいだと思います。消費者は、企業間輸送のことはわからないと思います。荷主も消費者も、実際に荷物が届かないという状況になったときに、はじめて2024年問題を意識すると思います。2024年問題という言葉があっても、特に一般消費者は自分たちには関係ないと思っている人が多いと思います。

運送業務の無駄は待ち時間と手荷役

2024年問題を解決するためには、運送の効率化も必要だが、星野氏によれば、運送業務における一番の無駄は、荷物の積み下ろしのための待ち時間と手荷役(ドライバーが手作業で荷物の積み下ろしする作業に要する時間)だという。

同協会の会員の中には、この2つの課題解決に取り組み、成果を挙げた企業もある。

茨城県のトラック事業者では、大手加工食品メーカーが製造する食品をスーパーやコンビニなどの物流拠点や問屋などに配送する業務を行っている。同社は、出荷作業の待機時間が長くなっていたことから、出荷オーダー日の変更に取り組んだ。

以前は、荷主からの出荷オーダーが入ってくるのは配送前日であっため、自社倉庫での出荷準備を行うことができず、拘束時間が長くなっていたことが問題となっていた。また、オーダー確定後に配車を行うため、出荷量によっては、車両の積載効率が悪くなることもあったという。

そこで同社は、荷主の協力を得て、出荷オーダー日を配送前日から配送前々日の午後に変更した。これにより、積み込み開始時刻が前倒しできるとともに、フォークリフト作業員、ドライバーともにオーダー確定までの待機時間がなくなり、双方の労働時間短縮に大きく貢献したという。

また、待ち時間の短縮には、トラック予約受付システムの活用も有効だとされている。トラック予約受付システムは、トラック側が物流施設への到着時刻等を事前に予約。物流施設側はトラックと貨物の入出荷情報を事前照合するとともに、予め作業準備することでトラックの待機時間削減と物流施設側の作業効率アップの両立を図るものだ。

ただ、星野氏は、トラック予約受付システムは、運用を正しく行わないと、却って効率を悪くすると指摘した。

星野氏:渋滞などで、その時間に行けるかどうかわからなくても、早めに予約だけ入れておくドライバーもいます。到着時間変更による予約の変更もせず、そのままにしてしまうドライバーが多ければ、他のドライバーの予約ができなくなります。せっかくのシステムも適正に管理を行わなければ、その効果が発揮されません。

手荷役の無駄を解決するパレット化

前述の事業者では、工場出荷商品のパレット化により、積込み、荷卸しの時間短縮も進めた。以前はバラ積み・バラ卸しが主体だったため積み込みや荷卸しに、トラック1台当たり約2~3時間を要していた。また、工場出荷製品のパレット化以降も近距離の小口輸送においてはバラ積み・バラ卸しが多く残っていた。そこで、段階的にパレット化を進め、荷役作業時間を短縮した。

さらに、パレットを一度に最大4枚運ぶことのできる2枚差しフォークリフトを導入。これにより、積卸しにかかる時間がトラック1台当たり20~30分ほどで済むようになったという。

星野氏は、パレット化によって荷役作業時間は短縮されるが、導入の課題は料金負担の影響も大きいと指摘した。

星野氏:パレット化は何十年も前から言われていますが、十分に普及したとは言えません。原因の一つは誰が費用を負担するのかということです。基本的には、発荷主が負担していますが、適切に回収できなければ、パレットは流通過程の中で紛失することもあるので、それを誰が弁償するのかという課題もあります。また、パレットの普及を図るためには標準的なサイズを決めていかなければなりません。国は1100×1100mmのパレットを標準に定めていますが、倉庫内で使用しているパレットが違うサイズだと、結局積み替えなければいけないという問題が発生します。

最後に星野氏は、「物流の2024年問題」の解決には、国の「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づく施策を実行していくことが必要だと述べた。

星野氏:燃料も、車両も、タイヤも値上がりしているので、その価格転嫁を進めなければなりません。960時間を守ればいいということではなく、両方合わせて考えていかなければいけません。政府と連携し、物流の2024年問題を社会全体で意識してもらうことが必要だと思います。

物流の効率化にはIT活用が有効

上部で、トラック予約受付システムを紹介したが、物流の効率化に向けては、ITの活用が必要だ。国土交通省も、総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の中でも、サプライチェーン全体の最適化を見据えたデジタル化が必要だとしている。

全日本トラック協会も「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を2018年の12月に作成しており、その中で、適切な運行支援には、デジタルタコグラフ(デジタコ)、ETC2.0、IT点呼、トラック予約受付システム、ITを活用した運輸統合管理システムなどの活用が効果的だと述べている。

デジタコは速度、距離、時間を記録するだけでなく、運転日報・稼働実績等の帳票の自動作成も行えるため、労務管理を効率化する。IT点呼では、テレビ電話のような仕組みを用いて、点呼に伴う移動の無駄を省くことや、同業他社と共同化・アウトソーシング化も可能だ。

ETC 2.0を活用した「ETC2.0 車両運行管理支援サービス」では、車両の走行位置やブレーキなどの情報が把握できるため、到着予定時刻の予測、渋滞回避、ヒヤリハットの場所の特定を行うことができる。

運輸統合管理システムは、デジタコを会計システムや給与システムと連携させることができ、業務処理の漏れ防止や経営管理の強化に役立つという。

ただ、これらのITツールの導入は、一部の大手企業にとどまっており、今後、広く普及させる必要がある。

物流の2024年問題の解決には、適正な運送費用の実現とともに、IT活用がポイントになるだろう。

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