2024年3月11日

ヤマト運輸を中心とするヤマトグループでは、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」にそって、さまざまなDXに取り組んでいる。ここでは、そのいくつかを紹介する。

「YAMATO NEXT100」と「Oneヤマト2023」でDXを推進

ヤマトグループの持株会社であるヤマトホールディングスは、2020年1月、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表した。これは、今後のヤマトグループにおける、中長期の経営のグランドデザインを定めたものだ。「YAMATO NEXT100」は、宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化に向けた3つの事業構造改革と、グループ経営体制の刷新、データ・ドリブン経営への転換、サステナビリティへの取り組みの3つの基盤構造改革からなる。これにより、2024年3月期には、営業収益2兆円、営業利益1,00億円以上を目指している。

さらに、翌年の1月には、2022年3月期~2024年3月期のヤマトグループ中期経営計画「Oneヤマト2023」を発表。データ分析に基づく経営資源の最適配置、グループインフラの強靭化、サプライチェーンをトータルに支援する、ビジネスパートナーへの進化、「ECエコシステム」の最適解の創出、資本効率の向上、「運創業」を支える人事戦略の推進、経営体制の刷新とガバナンスの強化、データ戦略、イノベーション戦略の推進、サステナブル経営の強化という9つの重点施策を定めた。

デジタル教育プログラム「Yamato Digital Academy」をスタート

この中の人事戦略では、2021年に未来のヤマトグループを担うデジタル人材の育成に向け、階層ごとの研修カリキュラムからなるデジタル教育プログラム「Yamato Digital Academy」をスタートさせた。

経営層向けカリキュラムでは、データ・ドリブン経営への転換を牽引する経営層、経営幹部候補者は、DXに必要な経営資源の分析とリスクへの見識を高め、正しいビジネス判断を可能にする経営プログラムの習得を図る。

DX育成カリキュラム(デジタル機能本部内向け)では、DX人材の集団である同本部の社員は、各事業本部、各機能本部と協調して新規ビジネス立ち上げに中核的役割を果たすため、「DX育成カリキュラム」に沿って複数のプログラムを受講。また、ITスキルを高めるだけでなく、理念研修や全社オペレーション研修などを通じて他本部が手がける事業を理解し、ITを駆使した事業創出力の習得を図る。

>「Yamato Digital Academy」(出典:ヤマトホールディングス) イメージ
「Yamato Digital Academy」(出典:ヤマトホールディングス)

全社員向けカリキュラムでは、ヤマト運輸の各事業本部、各機能本部、およびコーポレート部門のリーダーは基礎的なDX研修を受講し、新しい価値を創出できる人材を目指す。

また、ヤマト運輸の各主管支店のスタッフは、デジタル機能本部から提供されるデジタルデータを柔軟に活用するための研修を受講。デジタルツールを使いこなす力を向上させ、全社員の創意工夫による業務の効率化、高度化を推進する。

デジタルプラットフォーム「Yamato Digital Platform」の構築

グループインフラの強靭化では、最先端のテクノロジーを取り入れたデジタルプラットフォーム「Yamato Digital Platform(ヤマトデジタルプラットフォーム「YDP」)を構築。既存システムのYDPへの移行により、データのリアルタイム連携、分析・活用を推進している。

YDP上で稼働する様々なサービスから抽出したデータを活用して、業務量予測の高度化とオペレーションの効率化に取り組んでいる。

業務量予測では、機械学習により月次で予測モデルを改善することに加え、中・大口顧客からヒアリングしたセールの実施予定や販売見込みなどの情報を集約し、予測に反映させるアルゴリズムを構築することで、予測の精度向上につなげている。

また、作成した3カ月先までの日別の業務量予測に基づき、宅急便の営業所や仕分けターミナル、幹線輸送の人員・車両計画等を作成し、実際のオペレーションを行うことで、安定的かつ高品質なサービスの提供とコストの適正化の両立を図っている。

さらに、オペレーションの効率化に向けて、配送伝票を読み取り配達先住所や時間帯指定に基づく集配ルートを自動作成する機能の開発による集配業務の効率化や、資材の棚卸や荷物の異常報告等のバックオフィス業務のデジタル化・効率化を推進し、セールスドライバーやゲストオペレーターなど、第一線の社員がこれまで以上にお客様に向き合える環境整備を進めている。

法人向けの温度管理とトレーサビリティ

モノを届けるだけでなく、そこに至るまでの履歴情報を付加価値として提供することにも取り組んでいる。例えば、厳密な温度管理が必要とされる特殊医薬品ロジスティクスでは、リアルタイムで荷物データを追跡できるYDPの基盤とIoTデバイスを活用して、荷受けから納品までの位置情報や温度、湿度、照明、振動による衝撃の状態を、すべてリアルタイムでモニタリングできるシステムを構築。

特殊医薬品ロジスティクス輸送中の温度や位置情報をリアルタイムで把握(出典:ヤマト運輸) イメージ
特殊医薬品ロジスティクス輸送中の温度や位置情報をリアルタイムで把握(出典:ヤマト運輸)

輸送中の温度管理という点では、食品輸入卸の大手であるWismettacフーズとヤマト運輸は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)において、国内外で流通する荷物の位置情報や温度推移などの輸送関連情報をリアルタイムに可視化する「トレーサビリティプラットフォーム」を活用した、農産品を輸出する実証実験を実施した。

これはIoTデバイスや電子タグを利用し、国内外の複数ユーザーの荷物の位置情報や温度推移をリアルタイムに確認することができる。輸送時に温度やセキュリティなどの異常を検知した場合は、アラートを出し、速やかな対処が可能となっている。

九州から米国(ニューヨーク)にイチゴの輸出実証した際のトレーサビリティ情報(出典:ヤマト運輸) イメージ
九州から米国(ニューヨーク)にイチゴの輸出実証した際のトレーサビリティ情報(出典:ヤマト運輸)

ECエコシステム

個人向けでは、登録数5,000万人を超える会員サービス「クロネコメンバーズ」を、2022年3月よりYDP上に移行した。これにより、配送状況のリアルタイム連携に加え、今まで不在連絡票やホームページで確認する必要があった各種情報を一元化して表示している。

ヤマト運輸公式アプリで荷物状況、受け取り場所、日時の変更も行える(出典:ヤマト運輸) イメージ
ヤマト運輸公式アプリで荷物状況、受け取り場所、日時の変更も行える(出典:ヤマト運輸)

また、デジタルデータで顧客のニーズにリアルタイムに応える新サービスとして「EAZY」を導入し、予期せず訪れたコロナ禍による生活様式、ビジネスの急速な変化と、加速度的な荷物の急増に対応した。

「EAZY」は、ECの持続的な成長を実現する「ECエコシステム」の確立に向けてEC利用者・EC事業者・配送事業者の全てをデジタル情報でリアルタイムにつなぐことで、購入・配送・受け取りの利便性と安全性、効率性を徹底して向上させる新配送サービス。通常の対面受け取り以外に、玄関ドア前、自宅宅配BOX、ガスメーターBOX、物置、車庫、自転車のかご、建物内受付/管理人預けなど、多様な指定場所での受け取りに対応する。

多様な受け取り場所に対応(出典:ヤマト運輸) イメージ
多様な受け取り場所に対応(出典:ヤマト運輸)

さらに、クロネコメンバーズには、コンビニエンスストアや宅配便ロッカーPUDOステーション、宅急便センターでの受け取りなどの選択も可能にしている。

EASYでは、スマートフォンなどで鍵の施錠・解錠を行う仕組みであるデジタルキーを活用し、マンションのオートロック解錠も行っている(同意した場合)。

ヤマト運輸はこの仕組みを利用し、KDDIやプライム ライフ テクノロジーズとともに、トランクへの配達実証実験も行っている。本実証では、参加者の自家用車にデジタルキーで解錠可能な専用デバイスを設置。「EAZY」にて配達場所を「車内への置き配」に指定することで、配達員が車両のトランクなどをデジタルキーで解錠し、商品を届けることを可能にしている。自動車のトランクを宅配ボックス代わりに利用する仕組みだ。

実証のイメージ(出典:ヤマト運輸) イメージ
実証のイメージ(出典:ヤマト運輸)

データを活用したラストマイルオペレーションの効率化

データを活用したラストマイルオペレーションの効率化も図っている。ヤマト運輸は荷物情報(エリア、時間、担当者、種別、個数など)を一元的に集約し、配達業務の効率化を図ることを目的に、地理情報システムを活用した「エリアマネジメントシステム」を開発した。

地理情報システムを活用した「エリアマネジメントシステム」(出典:ヤマト運輸) イメージ
地理情報システムを活用した「エリアマネジメントシステム」(出典:ヤマト運輸)

以前は紙の地図に一日の配達先をメモしアナログで集計するといった手順を踏んでいたが、デジタルの地図上で地域を選択するだけで荷物量の集計を行うことができるシステムを開発した結果、集計・検討の時間を大幅に削減できたという。これにより、地理的に隣接しているエリアのどの部分の担当を調整するのか等の意思決定に集中して取り組めるようになったという。

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