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市民起点のスマートシティの構築で課題解決を目指す鎌倉市

2024年4月22日
話し手
  • 鎌倉市長
  • 松尾 崇

長い歴史を持ち、寺社仏閣が数多く存在する鎌倉。今では、日本だけではなく海外からも多くの人が訪れる、人気の観光エリアになった。近年、鎌倉市はオーバーツーリズムの課題なども抱えていたが、基本的には全国の地方都市と同様に少子高齢化の課題を抱えている。そんな課題の解決にデジタルを活用し、持続可能なスマートシティとなることを目指す鎌倉市の取り組みについて、市長の松尾 崇(まつお たかし)氏に伺った。

(写真1)鎌倉市長 松尾 崇氏
(写真1)鎌倉市長 松尾 崇氏

高齢化やオーバーツーリズム、防災に課題を抱える鎌倉市

現在鎌倉市が抱えている課題について、具体的に教えていただけますでしょうか。

松尾氏:大きくは、高齢化、オーバーツーリズム、防災という3つが課題になっています。鎌倉市の高齢化率は2023年9月末で30.3%になり、全国平均で比較しても高い割合にあります。現在、第3次鎌倉市総合計画の第4期基本計画の終盤に差し掛かったのですが、今後も高齢化が進むことが予測されます(図1)。これは日本全体で言えることですが、2025年には団塊の世代が75歳以上になるので、さらなる高齢化の課題に向き合っていかなければと考えています。

(図1)鎌倉市のスマートシティ構想に関わる各計画と位置づけ(資料提供:鎌倉市)
(図1)鎌倉市のスマートシティ構想に関わる各計画と位置づけ(資料提供:鎌倉市)

鎌倉市に限らず、かつて日本には、地域の相互扶助や家族同士の助け合いなどといった支え合いが機能していました。ですが、核家族化の進行や共働き世帯の増加などで、地域の中でのつながりが希薄化しています。また、介護者自身も高齢者である老老介護、子育てと介護も同時に行うダブルケアなど、一世帯で複数の課題を抱えている状況も見て取れ、対応が複雑化しています。

オーバーツーリズムに関しては、鎌倉市もコロナ禍前の延べ入込観光客調査では、年間2,000万人前後の観光客が来ていました。コロナ禍の影響で、直近では約8割になっているとはいえ、年間を通じ平日も含め、かなり多くの方が来ています。ただ、同じ観光地でも京都や奈良と比べると狭いエリアに人が集中するので、いろいろな問題が生じます。特に、鎌倉駅や鶴岡八幡宮を中心としたエリアでは、三方が山に囲まれて一方が海という地形の影響もあり、道路も混雑しやすい状況にあります。そのため、観光客の方には中心市街地に車で入る前に、郊外に駐車してもらい、そこから公共交通機関を使っていただくパーク&ライドを推奨しています。また、市観光協会のホームページから主要な観光地点の混雑度合いをヒートマップで提供するなど、時期的、時間的、場所的な集中を分散化させるさまざまな施策を進めています。

現在、江ノ島電鉄鎌倉高校前駅付近の踏切がアニメの影響により非常に多くの観光客が来訪しており、車道で写真を撮るなど、危険な状況となっていることから安全対策として警備員を配置し、警察とも連携しながら取り組んでいる状況です。その他、鎌倉駅周辺や大仏様がある長谷駅付近でも多くの来訪者があることから、関係機関と連携し安全対策に取り組んでいる状況です。

(写真2)鎌倉高校前駅の踏切はアニメの影響で観光客が集中するようになった
(写真2)鎌倉高校前駅の踏切はアニメの影響で観光客が集中するようになった

防災に関しては、鎌倉観光の人気を支えている風光明媚な地形が、まさに災害と密接に関わっています。海に接していることによる、地震の津波被害だけではなく、多くの山を抱え崖地も多いので、台風による風水害、土砂災害、そして洪水など複合的なリスクを抱えています。特に津波に関しては、陸地までの到達時間が最短の想定で8分と短く、沿岸地域では建物の高さを最大でも15mに抑えているので、観光客の方々への避難誘導の難しさも感じています。

官民連携によるデータ連携や市民参加型プラットフォームの活用でスマートシティを構築

こうした課題の解決につながるスマートシティ構想とは、どのような取り組みになるのでしょうか。

松尾氏:今、鎌倉市ではスマートシティ構想の取り組みとして、さまざまなプロジェクトを進めています(図2)。例えば、官民によるデータの利活用を促進し、新たなサービスを生み出すデータ連携基盤や、市民が政策形成過程に参加できる市民参加型共創プラットフォームなどを構築しています。

(図2)鎌倉市のスマートシティ連携事業(資料提供:鎌倉市)
(図2)鎌倉市のスマートシティ連携事業(資料提供:鎌倉市)

スマートシティの取り組みの中で、民間企業等とはどのような取り組みを進めているのでしょうか。

松尾氏:現在は民間企業や大学とのコンソーシアムによるスマートシティ官民研究会で、官民のデータ連携に向けたデータ形式や収集ルールなどの課題を協議検討している段階です。また、災害発生時の避難所運営のDX化に向けた実証実験や、市民のウェルビーイング(幸福度)向上につながるビジネスを考えるワークショップなどを実施しています。避難所運営のDX化としては、避難所の入り口で受付をする際、今までは帳簿に名前や住所を書いてもらっていたのですが、避難者の情報をIDと紐付け、データで避難者の数を集計する実証実験を行いました。

その他にも、2021年1月からは鎌倉市のSDGsつながりポイント事業として、「まちのコイン クルッポ」という地域通貨の運用を進めています(写真2)。現在もユーザーの裾野を広げていく取り組みを続けており、「クルッポ」を使ったさまざまな施策展開の可能性を感じています。例えば、当初は想定しなかったのですが、最近は福祉的要素の傾向も見て取れ、孤立している人たちを巻き込みながら、災害発生時のさまざまな取り組みにもつなげていけないかと期待しています。

(写真3)鎌倉市内にあるクルッポが使えるレストラン
(写真3)鎌倉市内にあるクルッポが使えるレストラン

市民参加型共創プラットフォームでは、市民はどのように政策形成過程に参加できるのでしょうか。

松尾氏:市民参加型共創プラットフォームは2022年11月から運用が開始され、2024年3月末の時点でアカウントの登録者が550名を超えています。約半数が30代から50代で、これまでに1000件を超える政策のアイデアや意見が投稿されています。従来の対面による市民対話だけではなく、幅広い年齢層の方が参加しやすいようオンラインと組み合わせることで、時間や場所の制約を取り除きました。これによって、従来参加しにくかった年齢層の方などを中心に市民が政策形成過程に参加でき、裾野が広がっていくと考えています。実際にプラットフォームを活用した方からも、「人の意見や考え方が分かる」「緩やかな距離感から政策形成に参加できる」といった声をいただいています。

デジタルガバメントを支えるデジタル技術

その他にも、デジタルを活用したスマートシティに向けた取り組みについて教えてください。

松尾氏:デジタルガバメントの推進として、市庁舎内において「書かない窓口」を実現しました。窓口でマイナンバーカードをかざせば、チップに内蔵されている基本4情報(氏名・住所・生年月日・電話番号)が申請書に自動印刷されるシステムです。さらに、業務効率化のためにRPA(Robotic Process Automation)やAIを活用したOCR(Optical Character Recognition)などを導入した電子申請を進めることで、市職員の業務効率化や市民の申請手続きの効率化を進めています。

文部科学省が推奨する、児童・生徒に1人1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するGIGAスクール構想に関しても、積極的に取り組んでおられますね。

松尾氏:2020年度に、教育委員会は、1人1台のタブレット端末を小中学校と教職員に配布したのですが、その際にLTEモデルを採用しました。Wi-Fiモデルに比べて非常に費用がかかるのですが、いつでもどこでもデジタル端末が使えるようにして、児童生徒1人1人に自分らしい学び方をつかみ取ってもらうことが目的です。小中学校の各教室においても、電子黒板を有効活用した教育活動に取り組んでいる状況です。

昨年11月には、市職員のITリテラシー向上やDX人材育成のために、DXアドバイザーを採用されました。

松尾氏:今回は、民間企業を通じて複業人材を採用させていただき、市職員との共同プロジェクトによって、行政課題や地域課題の解決に取り組みます。現在は市職員のITリテラシーの分析を行っており、5月にはその分析結果をもとにした研修を行う予定です。

市民起点でデジタルを活用し高齢者がもう一度社会に参加できる街に

鎌倉市は先端技術を取り込むだけでなく、規制緩和も同時に進めて地域の問題点を解決していくスーパーシティへの挑戦*も掲げていますが、市長としてどのような思いで進めているのでしょうか。

松尾氏:スーパーシティへのエントリーは、スマートシティの取り組みを加速させる前提としたいと考えています。その検討の経過で培った知見が、市の課題解決やスマートシティ構想の策定に生かされています。またスーパーシティへのエントリーに盛り込んだ数々の民間企業からの提案が、スマートシティ官民研究会の参加企業拡大に大きく貢献し、鎌倉市のスマートシティの取り組みを力強く後押ししていただいたと感じています。

今後のスマートシティへの取り組みに関わる、鎌倉市の展望をお聞かせください。

松尾氏:鎌倉市はこうした取り組みを積極的に進めることで、市民のウェルビーイングを高めながら、産官学民で世界に誇れる持続可能な共生社会を共創することを目指しています。それを実現する手段が、デジタルテクノロジーであると捉えています。そのために私たちが大切にしているのは、市民起点という考え方です。ただ単に最新のテクノロジーやデータを取り入れるだけでなく、市民の暮らしや課題に寄り添いながら、誰もが豊かさを感じて自分らしく安心して暮せる共生社会を実現します。

そして、今まで社会参加を諦めていた方たちがもう一度社会に参加し、この街に住むことで社会に貢献できるという気持ちになることを目指します。

*スーパーシティへの挑戦:
国は、2030年ごろに実現される未来社会の先行実現を目指し、市民が参画し、住民目線で、生活全般にまたがる「複数分野の先端的サービスの提供」、「複数分野間でのデータ連携」、「大胆な規制改革」をポイントとするスーパーシティ構想を掲げています。鎌倉市では、このスーパーシティ構想の内閣府へ申請を予定しています。

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