製造業のDX導入をスキルの見える化で支援
- 株式会社Skillnote
- 代表取締役
- 山川 隆史

株式会社Skillnote 代表取締役 山川 隆史氏
日本の基幹産業とも言える製造業。世界に誇る製品を多々生み出してきた企業も、近年はさまざまな課題を抱えており、これからも世界の第一線で戦っていくには大きな変革が必要とされている。その一つが、DX(デジタルトランスフォーメーション)化である。製造業におけるDX化においては、どのように人材を活用すればよいのか。組織や従業員が持つスキルデータを一元化・可視化することで、企業の課題解決を支援するSkillnote*を立ち上げた山川 隆史(やまかわ たかふみ)氏にお話を伺った。
企業全体のDX導入が遅れている日本の製造業
──日頃から製造業の方々と接していて、実際に日本の製造業におけるDX化、IT活用の現状について、どのように感じていますか。
山川氏:私が関わっているのは製造業の中でも人材やスキルに関わる部門で言うと、お客様との会話の中で感じるのは、やはり製造現場におけるDXの導入は遅れているということです。例えば、製造現場においては、未だに、紙の書類でのやりとりが多く、Excelで入力したままのデータなどが多々あり、それらはDX化によって、劇的に変化するのに、そこまでには至っていないという現実があります。
もちろん、製造業には、さまざまな部門があり、物を作ったり検査をしたりする部署では、DX化が進んでいます。例えば、ロボットやAI、IoTなどを積極的に導入・活用して工程管理を行っているような企業に行くと、製造工場とは思えないほど綺麗で新しい施設があって驚くこともあります。
ところが、そのような工場でも、私たちが関わっている従業員のスキル管理や、それに付随して保管しておく必要がある記録などに関しては、ほとんどのデータが紙やExcelのままになっているのです。ですので、企業を全体的に見ると、やはり製造業においてはDX化が遅れていると感じています。
──なぜ日本の製造業では、そのようにDXの導入が遅れていると思いますか。
山川氏:これは日本の製造業特有の体質だと思うのですが、現場ではずっと改善を繰り返してきて、今は比較的うまくいっているにも関わらず、「今なぜDXにより、従来の環境を大きく変えなければいけないのか」という思いが強いのです。それがなかなかDX化に踏み切れない大きな要因ではないかと思っています。よく聞く話ですが「IoTなどを導入してセンサーで測定したデータを飛ばすと、そのセキュリティは大丈夫なのか」というようなことになります。でも、紙で記録したデータをキャビネットとかで鍵を掛けて管理していても、いつでも外に持ち出せるので、そのセキュリティは大丈夫なのでしょうか。
結局、製造業の企業体質としてなにごとにも慎重で、新しいことを始める場合に抵抗が強い傾向があるので、全体的なDXが遅れてきたと思っています。私たちがお付き合いしているのは中堅企業以上の製造業ですが、大企業でも基本的にそのような状況です。特に大企業になると、事業部門や工場によって製造しているものが異なり、縦割りでサイロ化しているので部門ごとのデータ連携ができていないのが現状です。
──最近では製造業でも、SAPのようなERP(Enterprise Resource Planning)を導入して、設計ツールも活用している事例を見かけることが増えてきました。
山川氏:確かに、ERPの導入は進んでいます。しかし、基幹システムと特有のデータの連携などがまだできておらず、結局その間を紙やExcelなどで埋めているケースが多いようです。
製造業のDX化にはなにが必要なのか
──そのような現状がある中、今後、製造業ではどのようにDXの導入を進めていけば良いとお考えですか。
山川氏:DX化には、まずトップダウンで基幹システムとデジタルの連携を進めていくことが重要になると思います。また、現場でもデータを見える化することで、紙やExcelを使用するだけでは難しかった部分まで改善を進めていくなど、経営と現場の両面からの取り組みが必要になると思っています。
その際に重要になるのが、社内人材の活用だと思っています。日本にはDXを推進するために、さまざまなツールやソリューションを提案し、構築するシステムインテグレーターが数多くいます。中小企業だけではなく大手企業であっても彼らに要件を伝え、そこからの提案をもとにDXを推進していくケースが多いと思います。これでは、社内でいろいろと考えながら自力でDXを進めていくことにはならないので、本当にDXの価値や活用方法が分かる人材が育ちません。やはり、ある程度社内でも試行錯誤して人材を育てながら自力でDXができれば、その後の活用もスムーズに進められると思います。
社内で必要なDX人材とは、なによりも、ものづくりに関わる現場の課題や悩みごとを理解している人です。とはいえ、現場が分かってデータも使えて未来の絵が描ける、というようなスーパーマンのような人材を作るのは簡単ではありません。ですので、DXのチームを作って分担しながら取り組んでいけば良いと思います。
──実際に、自力でDXを進めていくにも、様々な課題があるように思うのですが。
山川氏:そうですね。DXの全てを内製化するとなれば、開発効率も悪いのでシステムの稼働までに時間がかかるなど、いろいろと無理があると思っています。特に、最近は製造業もさまざまな環境変化への対応に迫られています。それによって、例えば自動車のEV化などを見ても技術や事業がものすごいスピードで変わっているし、環境に配慮してCO2の排出量削減などにも対応する必要があります。そのような状況なので、DXのためのシステムが完成した頃には、現場のオペレーションが変わってしまい対応できなくなった、などということも起きてしまいます。
結局はバランスが必要で、まずはシステムインテグレーターに丸投げするのではなく、ある程度自分達で試してプロトタイプを作ってみる。これで行けるぞとなったら、外部システムの利用も含めて検討を進めていくといった手法で行っていけば良いのではないかと思っています。
──経営者がDXに消極的だった場合、現場から改善要求する効果的な方法はあるでしょうか。
山川氏:とりあえず現場で小さくスタートして、ある程度成果を出しながら大きな動きに変えていくことはあると思います。最近はさまざまな企業でDX推進室みたいなものを置いていますが、本社からトップダウンで来ても現場のことが分かっていないので、時間をかけてDX化したのに、現場では使えないものになったみたいなこともあります。結局、トップダウンで上からサポートする人も必要だし、現場のことがよく分かっていて「DXの活用においてはこういったデータを見える化する必要がある」という提案ができるスキルを持った人も必要だと思います。
──従業員のスキルの見える化は、どのようにDXに生かせるのでしょうか。
山川氏:単に生産性を高めることを目的とするなら、組立や計測などの工程においては、人の作業や思考を標準化してロボットやAIの導入でデジタル化を進めていくことが必要になるでしょう。究極的には、工場に人がいなくても製造工程を全部デジタルで動かせるならば、どんな難しいものでも短期間で大量に作れるようになるかもしれません。とはいえ、実際には現場で工程を管理する人がいる方が生産性は上がったりするので、やはり製造業は人が力を発揮する現場だと思っています。
すなわち、製造工程全体を見てどうすれば効率化できるのかを考えたり、メンテナンスしたりする作業においては、人の力が絶対に必要です。デジタルの導入で人の仕事は変わっていくのですが、人がやらなければならない仕事も沢山残ります。そこで必要になるのが「人のスキルの見える化」であると思っているので、私たちは「Skillnote」によるスキルマネジメントを提供しているのです。
──製造業において「Skillnote」を活用する、一番のメリットは何でしょうか。
山川氏:スキルを見える化することで、本来必要だと思われる人材と実際に現場にいる人材との間にギャップがあれば、そこを埋めていく第一歩が踏み出せます。例えば、精密部品の加工など製造の現場を支える重要なスキルが、今後も企業を存続させるために必要だとします。ところが、そうしたスキルを持つ人材が実際には社内に数人しかおらず、現在60歳を超えて定年退職を控えていたりするならば、今から徐々に技能伝承を始めておかなければならないことに気がつくでしょう。
また、将来的にロボットやAIの導入などによって、現場が大きく変わっていくことも予想されます。そうなると、これまではそれらをオペレーションするスキルが求められてきたけれど、今後はそこから出てきたデータを読み取って活用するスキルが求められるようになるかもしれません。
このように、今後はどのような技術が必要になり、そのスキルを持った人が今どのくらいいるのかを知ることも重要です。「Skillnote」では、将来的に必要になるスキルを持つ人材の育成計画を立てたり、その進捗管理を行ったりなどもできるので、計画的に人を育てることが可能になります。

(図1)スキルや教育に関する情報を一元化・可視化し、蓄積したスキルデータの活用による勘・経験に頼らない人材育成や最適配置などを加速させるSkillnote
製造業における人材活用の課題とは
──一方で、製造業にはなかなか若い人が集まらないという悩みを聞くことも多いです。そうした課題は、どう解決していけばいいでしょうか。
山川氏:たしかに、製造業では企業規模に関わらず、新しい人材が採用しにくい状況が続いています。大学で理工系に進む学生さんが、"データ活用やデータサイエンティストはかっこいいけど、製造業は汚いし危ない"みたいに思っていることが心配です。ですが、実際にはDXによって製造業もいろいろと変わろうとしているので、製造業に来る方が絶対に面白いと思っています。
製造業ならば、例えば工作機械の生産性を2倍にするためのシステムを開発すれば、その成果を実際に目で見ることもできます。また、そうした成果が世界中にインパクトを与えることもあるので、様々なチャンスを生み出すことができますし、日本の基幹産業をもう一度盛り立てることにも関わることができるでしょう。若い人材に製造業に来てもらうには、そうした面白さを積極的にアピールしていくことが必要だと思います。
──今後は「Skillnote」の事業として、製造業の中でも特に注力している分野はありますか。
山川氏:今は製造業に特化していますが、将来的には「Skillnote」をサプライチェーン全体に広めたいですし、日本だけではなくグローバルにも広げていこうと思っています。まだ海外拠点は置いていませんが、既に日系企業を中心に7カ国で使っていただいています。海外も国によって製造現場の方言などがあるので、どの国でも使えるように製品や体制を強化し、海外比率を高めていきたいと考えています。また、自動車業界にも、積極的に導入を進めていきたいと思っています。
「Skillnote」は、製造業の事業課題の解決と、個人の成長を支援することを目的としたシステムです。なにより、企業側の論理だけでは社員はついてきません。外からはとても良い会社に見えるのに、「もう辞めてしまうの?」みたいなことも起きています。結局、個人が輝けるようにしていかないと会社もうまくいきません。したがって、できるだけ個人のやる気を引き出すことにこだわりながら、事業を進めていきたいと思っています。また、人材の不足が顕著な建設業においても、あてはまると考えています。
「Skillnote」は、株式会社Skillnoteが開発し、運営するスキルや教育に関する情報を一元化・可視化し、蓄積したスキルデータの活用による勘・経験に頼らない人材育成や最適配置などを加速させるスキルマネジメントシステムです。
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