延べ52,300kmの線路の点検もドローンで自動化

2022年4月15日

通勤や通学に欠かせない日本の鉄道。その正確で安全な運行は、日々の保守管理によって支えられている。定期点検のみならず、災害や事故が発生した場合には、現地で詳細を確認し、必要な対策を講じる必要がある。人出不足が深刻化するなか、多くの労力と時間を要する保守点検業務の維持が課題となっており、鉄道各社は最新技術の採用による業務効率化に取組む。海外の先進事例を含め、鉄道インフラの保守管理業の進化を探ってみよう。

ドローンで線路設備点検を効率化

今月の「未来を語る」では、 京浜急行電鉄(京急電鉄)による取組み を紹介した。このような、最新技術を組み合わせた鉄道インフラの保守管理体制の構築を目指した実証実験が、今、日本各地で進んでいる。

JR東日本は、以前からドローン活用に向けた準備を進めており、2019年には、テストケースとして、高輪ゲートウェイ駅の開業に向けた品川駅線路切り替え工事の様子をドローンで空撮した。品川でのテストで、必要な手続きやリスク管理手法などを検証した上で、2020年には設備保守での利用を視野に、KDDIのスマートドローンプラットフォームを活用した線路設備点検の実証実験を実施している。スマートドローンプラットフォームとは、モバイル通信による目視外自律飛行と遠隔監視制御を実現するためのプラットフォームで、上空の高精細気象予測や3次元地図など、安定した飛行を支える様々な技術をパッケージ化したものだ。

ドローン空撮映像の例(出典:KDDIプレスリリース) イメージ
ドローン空撮映像の例
(出典:KDDIプレスリリース)

災害時の初動確認もドローンにお任せ

また、名古屋鉄道は、2021年11月、災害が発生した後にドローンで線路を点検することを想定した実証実験を実施した。ドローンの飛行は2回に分けて行った。1回目は事前に登録したルートを自動飛行させて障害物の確認を行い、2回目に自動運転と手動操作を組み合わせ、障害物を精査した。従来は、係員による線路の巡視や試運転作業により線路の状態を確認していたが、初動確認作業にドローンを活用することで、作業員の安全も確保しつつ、被害の把握や点検作業を迅速化できる。実証区間の大江駅から東名古屋港駅間の線路、約1.3kmの点検には、通常2時間ほどを要するが、ドローンであれば、約10分で往復することができるという。

ドローンから送られてくる映像を、遠隔からリアルタイム監視(出典:プロドローン プレスリリース) イメージ
ドローンから送られてくる映像を、遠隔からリアルタイム監視
(出典:プロドローン プレスリリース)

名古屋鉄道では、沿線4カ所の踏切で、踏切内外のカメラの映像をAIで分析し異常を検知する実証実験も開始した。踏切内で、人や自動車が長時間停止しているような、危険な状態をAIで判断し、事故の予兆を検知することが狙いだ。

離発着も無人で、一歩先を行く米国のドローン運用

日本では実証段階にあるドローンの目視外飛行による鉄道インフラの点検だが、海外では実用化が始まっている。米国では、2021年6月に、連邦航空局が初めて据え置き型のドローンドックを使用した目視外飛行を許可し、貨物鉄道会社BNSFによる活用が開始された。BNSFが利用するドローンドックは、ドローンメーカーとして米国発のユニコーン企業となったSkydio社が開発した、離発着や充電を自動で行うことができる据え置き型の設備だ。ドローンドックを設置しておけば、職員やドローンパイロットが現地に行くことなしに、ドローンの離発着を行うことができる。

AIを活用した運転整理業務の概念図(出典:JR九州プレスリリース)
Skydioのドローンドックから自動で飛び立つドローン
(出典:Skydio YouTubeチャンネル)

BNSFでは、橋梁や線路といった鉄道インフラの点検や事故発生時の緊急対応、そして、車両の入れ替えを行うための操車場周辺の監視にドローンを活用している。線路上の細かいひび割れなどを発見するためには、ドローンよりも専用の点検車両の方が適しているが、BSNFが所有する、米国とカナダに広がる述べ52,300kmの鉄道ネットワーク全てを点検車両で確認することは現実的ではない。ドローンを利用して点検頻度を高めることで、異常の早期発見と予防につなげる狙いがある。

中国では、すでに5G×ドローンで高速鉄道を点検

世界の5G基地局の60%以上が集中し、 5G普及で先行する中国 では、5Gとドローンの自動運行を組み合わせた、鉄道インフラの点検が実用化されている。北京と上海を結ぶ高速鉄道を運行する京滬高速鉄道は、開業十周年となる2021年に、5Gと自律飛行するドローンによる、線路点検システムを導入した。ドローンの位置測定には、中国が独自に開発、運用している「北斗ナビゲーション衛星システム」を利用しており、GPSよりも高精度での運用が可能となっている。また、ドローンからの通信には5Gが使われるため、高精細な画像をリアルタイムに伝送することができる。4Gでは実現できなかった精密な点検を、遠隔から実現可能だ。

日本では目視外飛行の法整備でドローン点検が加速

日本でも、さらなるドローン活用に向け、都市を含めた有人地帯で目視外飛行の法整備が2022年度内にも実現する見込みだ。運転間隔が短い鉄道の点検は、終電から始発までの夜間に実施する必要があったが、ドローンを活用すれば、日中であっても、列車運行に影響を与えることなく、いつでも点検業務を実施できる。点検業務の効率化のみならず、鉄道インフラの保守管理における働き方改革を実現するための手段として、日本でもドローンと5Gが大きな役割を果たすだろう。

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