スポーツ観戦以外にICTの多様な活用が期待されるスタジアム

2023年7月10日

現在、プロ野球球団やプロサッカーリーグなどに参加するには、少なくても数千人以上が収容できる大規模なスタジアムを本拠地として利用できることが求められている。設立当初は地元の施設を借用しているケースもあるが、膨大な建設費用をかけて作られたスタジアムならば、スポーツ観戦以外にもさまざまな方法でファンに活用してもらい収益につなげたい。そこで、最近ではAR(拡張現実)やメタバースなどの最新ICT技術によってスタジアムを活用する、さまざまな取り組みが始まっている。

デジタルで再現された旧広島市民球場を体験

日本のプロ野球リーグはほとんどのチームが創設から半世紀を超えているため、老朽化したスタジアムを解体して新たなスタジアムに本拠地を移すケースも増えてきた。とはいえ、ただ解体するだけでなくデジタルを使ってバーチャル空間で復興すれば、そのスタジアムに愛着を持っていたファンも楽しめる、新たなコンテンツとして生まれ変われる。

3月31日?4月2日に行われたイベント「旧広島市民球場デジタル再現企画~HIROSHIMA GATE PARK 実証実験企画!デジタル上に、あの光景を再び~」では、2012年に惜しまれつつ解体された旧広島市民球場の記憶を継承していくため、最後の試合を行った2008年当時の姿がデジタルで再現された。

(図1)デジタルで再現された旧広島球場(資料提供:ホロラボ)
(図1)デジタルで再現された旧広島球場
(資料提供:ホロラボ)

同再現プロジェクトは、旧広島市民球場跡地に新しく生まれた市民公園「HIROSHIMA GATE PARK」を手掛けたNTT都市開発による実証実験として企画、推進され、デジタル3D建築のノウハウとXR技術をホロラボが提供した。

来場者はARグラスをかけ、かつての球場エントランスとホームベースの場所から、最後の試合が行われた2008年当時の旧広島市民球場の光景を、実際の大きさで体感できるツアーに参加。球場の再現には、広島市公文書館が所蔵する、1957年当時のものを含む294枚の図面を使用。旧広島市民球場は何度も改築されているが、それらのデータを3Dモデリングツールを活用して取り込み、図面がない、もしくは改築の関係で不明な箇所は資料写真などからの再現も試みている。

(図2)3Dモデリングツールによる球場の再現(資料提供:ホロラボ)
(図2)3Dモデリングツールによる球場の再現
(資料提供:ホロラボ)

なお、デジタルで再現された旧広島球場はイベント開催後も、NTTコノキューが提供する仮想空間プラットフォームDOOR上にオンラインで体験できるコンテンツとして公開されている。

メタバースのバーチャルスタジアムを活用してファンサービス

一方、新たなスポーツの観戦スタイルとして注目されているのが、メタバースによるバーチャルスタジアムの活用だ。実在しないスタジアムをメタバース上に作るよりも、リアルなスタジアムをバーチャルで再現することで、実際にプロ選手のプレイを生で見ているように感じさせ、リアルなスタジアムでは味わえない体験も提供しようとしている。

ソニーは、1月5日から8日までラスベガスで開催された展示会「CES 2023」において、マンチェスター・シティ・フットボール・クラブと協業し、メタバース空間上に次世代ファンコミュニティを実現する実証実験を開始したと発表。YouTubeで公開されたイメージ映像では、マンチェスター・シティのホームスタジアム「エティハド・スタジアム」を再現したメタバース空間で、ユーザーがアバターとなって「バーチャル・エティハド・スタジアム」に入場し、他のユーザーとともにサッカー観戦を楽しむ様子が紹介されている。

(図3)バーチャル・エティハド・スタジアムではアバターとなったファン同士が交流できる(出典:ソニーのYouTube画像より引用)
(図3)バーチャル・エティハド・スタジアムではアバターとなったファン同士が交流できる
(出典:ソニーのYouTube画像より引用)

3DCG化された試合のハイライトでは、ゴール前の攻防やシュートなどの決定的なシーンを、ボールの軌跡を追いながら好きなアングルで見られるなど、現実のスタジアムにいても体験できない観戦の楽しみ方がいろいろと提供されている。

(図4)シュートシーンではボールの軌跡まで再現される(出典:ソニーのYouTube画像より引用)
(図4)シュートシーンではボールの軌跡まで再現される
(出典:ソニーのYouTube画像より引用)

この取り組みでは、ソニーの画像解析技術やセンシング技術に加え、スタジアム内に設置したカメラの映像から、選手や審判、ボールの動きを捉えて正確にプレイデータを収集するトラッキングシステムが活用されている。こうした技術によって、メタバース上にプレイ中の全選手の位置や骨格レベルの動きが精度高く再現されているという。

アバターになってスタジアム内を探索

メタバース上のスタジアムならば、テレビなどでしか見られない施設にも自由に入って行けそうだ。福岡ソフトバンクホークスはソフトバンクと協業し、ホークスの本拠地であるPayPayドームや周辺施設をメタバースプラットフォーム「ZEP」に再現した、「PayPayドーム in ZEP」を3月31日にオープンした。

(図5)PayPayドームや周辺施設をメタバース上に再現した「PayPayドーム in ZEP」(出典:ソフトバンクのプレスリリースより引用)
(図5)PayPayドームや周辺施設をメタバース上に再現した「PayPayドーム in ZEP」
(出典:ソフトバンクのプレスリリースより引用)

「PayPayドーム in ZEP」は、スマホやパソコンなどのブラウザからアクセスでき、アバターになってPayPayドーム周辺を散策したりファン同士が交流できる他、現実空間では関係者以外立ち入ることができない記者会見室やブルペン、ロッカーなどに入っていける。また、ホークス公式オンラインストアに行って、特別シートやグッズが購入できる。その他、VIPルームでは、ホークスのOB選手のデジタルカードを全種閲覧できる他、入場者限定の特別な情報が閲覧できるようになっている。

(図6)メタバースのPayPayドーム内に作られた施設(出典:ソフトバンクのプレスリリースより引用)
(図6)メタバースのPayPayドーム内に作られた施設
(出典:ソフトバンクのプレスリリースより引用)

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