スマート農業でロボットを活用するメリットとは?種類や最新技術の導入事例を紹介
目次
- ▼1. そもそもスマート農業とは
- ・ スマート農業が求められる背景
- ▼2. ロボット技術を農業に導入するメリット4つ
- ・ 大規模生産が可能になる
- ・ きつい・危険な作業から解放される
- ・ データを活用して高度な農業経営ができる
- ・ 農家の熟練技術を新規就農者へ継承できる
- ▼3. ロボット技術を農業に導入するデメリット・現状課題
- ・ ロボット導入に一定のコストがかかる
- ・ ロボットを操縦する人材育成が必要になる
- ▼4. スマート農業で活用されるロボットの種類
- ・ ドローン
- ・ 衛生リモートセンシング
- ・ トラクター型ロボット
- ▼5. スマート農業におけるロボット技術の導入事例
- ・ サトウキビ栽培のスマート化
- ・ ローカル5Gの活用でシャインマスカットの品質を管理
- ・ ドローンによる害虫対策
- ・ ドローンとAIで雑草種を特定
- ▼6. まとめ
スマート農業は、 最新技術を駆使して農作業の自動化や生産を進める新しい形の農業 である。AIやIoT、5Gなどを活用し、人手不足の解消や、データ分析による高度な農業経営を実現する。
今回は、 スマート農業が求められている背景、IoTやロボットを活用するメリットとデメリット、スマート農業で使用されるロボットの種類や技術を解説する。 スマート農業の実践に向けて、ぜひ本記事を参考にしてほしい。
そもそもスマート農業とは
スマート農業とは、 先端技術を活用しながら、省力化や高品質生産の実現を推進する新たな農業のこと。 ロボットやAI、IoT、5Gなどを駆使することで、農作業の負担を軽減できる。
データに基づいた農作業を効率的に行えるため、 新規就農者の確保 や 技術継承の問題解消 も期待されている。
スマート農業が求められる背景
スマート農業が求められる背景として、 農業従事者の高齢化や担い手の減少による深刻な労働力不足 が挙げられる。
農林水産省の「農業労働力に関する統計」によると、2022年の基幹的農業従事者(自営農業)は122.6万人で、2015年の175.7万人から7年で50万人以上減少した。2023年は116.4万人と、さらに減少することが予測されている。また、平均年齢は60代後半で、高齢化が進んでいることがわかる。
年 | 自営農業(万人) | 平均年齢(歳) | 耕地面積(ha) |
2015年 | 175.7 | 67.1 | 2.54 |
2016年 | 158.6 | 66.8 | 2.74 |
2017年 | 150.7 | 66.6 | 2.87 |
2018年 | 145.1 | 66.6 | 2.98 |
2019年 | 140.4 | 66.8 | 2.99 |
2020年 | 136.3 | 67.8 | 3.05 |
2021年 | 130.2 | 67.9 | 3.20 |
2022年 | 122.6 | 68.4 | 3.3 |
2023年(概数値) | 116.4 | - | 3.4 |
(出典:農林水産省| 農業労働力に関する統計 )
農林水産省の「農地に関する統計」によると、一経営あたりの耕地面積は、2015年が2.54haであったのに対し、2022年では3.3haに拡大している。農業に従事する人口は減少しても農地の大きさ自体は変わらないため、1人が対応する面積が計算上は広くなる。
少ない人数で広い農地に対応するには、高齢者による手作業では間に合わない。 そこで、先端技術を使った農作業の効率化が求められる。熟練者しかできない作業を自動化し、データを活用するスマート農業の実践で、農業が直面している課題解決につながる。
ロボット技術を農業に導入するメリット4つ

次に、 ロボット技術を農業に導入する4つのメリット を紹介する。
● 大規模生産が可能になる
● きつい・危険な作業から解放される
● データを活用して高度な農業経営ができる
● 農家の熟練技術を新規就農者へ継承できる
それぞれ、詳しく見ていこう。
大規模生産が可能になる
ロボットの活用で、 1人あたりの作業面積が拡大し、大規模生産が可能になる。 たとえば、自動走行トラクターを利用すれば、土を柔らかく耕す「耕うん作業」を無人化できる。
自動化により無人対応の農作業が増えると、 限られた作期において最小限の労働で生産性を向上できるだろう。
きつい・危険な作業から解放される
ロボット技術の導入で、 体に負担がかかるきつい手作業や、危険を伴う作業から解放される。
収穫物の積み下ろしなどの重労働や、暑い中での除草作業をロボットで自動化すれば、負担が減り効率的な農作業が実現する。
データを活用して高度な農業経営ができる
スマート農業では、センサーなどを活用し様々なデータを取得できる。それにより、 データに基づいた高度な農業経営を実践できる。
たとえば、ドローンや衛星から取得したセンシングデータや気象データをAIで解析すると、農作物の育成状況や病害虫発生の予測が可能だ。 作物のポテンシャルを十分に引き出しながら、高品質な農作物を多く収穫できるようになる。
農家の熟練技術を新規就農者へ継承できる
先端技術の活用で、 経験豊富な農家のスキルやノウハウを「見える化」でき、新規就農者への技術継承が可能となる。
たとえば、熟練農業者に「スマートグラス」を装着してもらい、撮影した作業をデータ化すると、新規就農者へその技術を効率的に伝えられる。熟練農業者による技術継承は、 高品質な農業の持続的発展 に役立つ。
ロボット技術を農業に導入するデメリット・現状課題

ロボット技術を農業に導入するにあたって、メリットだけでなく、次のようなデメリットや課題もある。
● ロボット導入に一定のコストがかかる
● ロボットを操縦する人材育成が必要になる
それぞれの現場課題について、詳しく説明する。
ロボット導入に一定のコストがかかる
ロボットの導入には一定のコストがかかり、農機によっては1,000万円を超えるものもある。また、 メンテナンスやランニングコストの負担も大きい。 農機にかけるコストが高くなると経営に影響を与えかねない点が課題だ。
しかし、普及が進むにつれて価格が下がる傾向にもあることから、 政府はスマート農業の全国展開を推進し、導入を支援している。
参考:スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業| 農林水産省 農産局農産政策部技術普及課
ロボットを操縦する人材育成が必要になる
農作業にロボットを導入する場合、 操縦する人材の採用と育成が必要 になる。たとえば、ドローンを使用する場合、正確に操縦する技術を身に付けるには時間とコストがかかる。そこで、導入時はロボット操作の代行サービスを利用しながら、操作に慣れることも重要となる。
株式会社ミライト・ワンのグループ会社である「株式会社ミラテクドローン」では、 ドローンに関する知識や技術、資格を習得できるスクールを展開している。
3日間のJUIDA認定コースでは、ドローンパイロットに必要な基本技術の習得が可能だ。詳細は ドローンスクール(JUIDA認定教習場) のページで案内しているので、ぜひチェックしてみてほしい。
スマート農業で活用されるロボットの種類
スマート農業では、どのようなロボットが活用されるのだろうか。ここでは、 ドローン、衛生リモートセンシング、トラクター型ロボットの3種類のロボット を紹介する。
ドローン
ドローンを使った農薬や肥料のピンポイント散布が進められている。ドローンによる農薬散布で作業負担だけでなく、作業時間も大幅に短縮できる。
2023年、農林水産省が報告した「スマート農業の展開について」によると、 ドローンによる農薬散布で作業時間が平均78%も削減 できたという。

(出典:農林水産省|スマート農業の展開について)
また、高い木に生る果物の収穫では「 収穫ドローン 」が導入されている。
イスラエルのTevel Aerobotics Technologies社が開発した収穫ドローンは、りんごや桃などへの傷を最小限に抑えた収穫が可能だ。 果物の熟度を判断する技術が搭載されているため、高品質な果物を収穫できる。

(出典:Tevel Aerobotics Technologies社| Press Release: Tevel Partners with Unifrutti, Expands to South America )
さらに、果物のサイズ、重量、病気の検出などの収穫データをリアルタイムで把握。農家はデータに基づいた果物の選別や等級付けまで実現できる。
参考: Tevel Aerobotics Technologies社|公式ホームページ
衛星リモートセンシング
衛星リモートセンシングは、測定器(センサー)を搭載した人工衛星が撮影した農場の画像を解析し、 農作物の生育状況を「見える化」するシステム。 システムから診断レポートが作成され、作業計画の立案や最適な収穫時期の把握が可能となる。
たとえば小麦の場合、タンパク含有率や水分率の診断ができる。従来は、収穫の順番を決めるために全農地を回り、水分を測る必要があったが、システムを導入すれば作業の効率化が実現する。
トラクター型ロボット
自動運転技術が搭載されたトラクター型ロボットは、農作業の効率化や大規模生産を可能とする。
株式会社TTKは、ICT環境の構築から運用、保守まで担っており、 農業機械の精密位置情報送信サービス「RTK-GNSS」を提供している。
「RTK-GNSS」は、仙台市の基地局から配信された位置情報を受信することで、 半径約20キロ以内において誤差5cm以下の精度で農機の自動化を実現。 夜間でも作業できるようになり、熟練者が不在でも作業効率が大幅に向上する効果がある。
スマート農業におけるロボット技術の導入事例
次に、スマート農業でロボット技術がどのように活用されているか詳しく知るために、4件の導入事例を紹介する。
● サトウキビ栽培のスマート化
● ローカル5Gの活用でシャインマスカットの品質を管理
● ドローンによる害虫対策
● ドローンとAIで雑草種を特定
それぞれの事例を、詳しく見ていこう。
サトウキビ栽培のスマート化
鹿児島県の徳之島では、クボタの営農支援システム「KSAS」を活用し、 サトウキビ栽培のスマート化を目指す実証実験 に取り組んでいる。
KSASは、電子地図を使ったサトウキビ畑の管理や分析機能を搭載。ドローンで撮影した画像に位置情報を紐付け、KSASと組み合わせることで、 サトウキビの生育状況を効率的に調査している。
さらに、収穫後すぐに製糖が必要なサトウキビの収穫量を、工場へリアルタイムで共有するために、収穫作業を行うハーベスターの稼働情報をKSASに送信。工場に搬入されるサトウキビの収穫量やタイミングを正確に予測することで、 工場との効果的な連携を目指している。
サトウキビ栽培のスマート化事例については、 サトウキビの栽培から収穫、製糖までを効果的に連携させるスマート農業 もチェックしてみてほしい。
ローカル5Gの活用でシャインマスカットの品質を管理
ブドウの栽培が盛んな山梨県では、 5Gとスマートグラス、AI解析を活用してシャインマスカットの品質を管理する実証実験 が行われた。実験では、ブドウの粒数をAIがカウントし、「スマートグラス」上に表示させて不要な粒を取り除く「摘粒」作業の効率化を実現。
さらに、AIがシャインマスカットの色を解析し、 ローカル5Gでリアルタイムにサーバへ伝送し、スマートグラスに表示させる仕組みを構築 した。スマートグラスの活用で、作業の効率化だけでなく、非熟練者への技術継承も可能にしている。

スマートグラスを通した作業者の視界
(AIとスマートグラス表示プログラムを開発した山梨大学より提供)
ローカル5Gを活用したスマート農業については、 5Gやローカル5Gでさらに進化するスマート農業 で詳しく紹介している。
ドローンによる害虫対策
スマート農業先進国として名高いオランダは、 屋内ドローンを使った害虫対策を実施 している。
手のひらサイズの屋内ドローンには自律飛行するセンサーが搭載され、蛾(ガ)を自動追跡してローターを使って駆除する。さらに、 益虫と害虫を見分け、害虫だけを取り除き作物を保護する。
殺虫剤を使用しないため、ドローンによって守られた作物は高級レストランへ高値で販売されている。

蛾を駆除する屋内ドローン
(出所:PATS Indoor Drone Solutions YouTubeチャンネル)
屋内ドローンを使った害虫対策など、オランダのスマート農業の事例は オランダから学ぶ、日本のスマート農業の未来 をチェックしてみてほしい。
ドローンとAIで雑草種を特定
高度な空撮システムを搭載したドローンを展開する「DJI JAPAN 株式会社」と、農薬専業メーカーである「日本農薬株式会社」は、 上空から農地の異常を検知し、最適な防除を実現するソリューションを共同開発している。
具体的には、DIJ JAPANのドローンで上空から発見した雑草に接近して撮影し、日本農薬のAIエンジンを用いて雑草の種類を特定し、最適な防除薬剤を提案する。この仕組みによって、 農地の健康状態を効率的に管理できるようになる。
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