月から火星までさまざまな宇宙事業の展開を目指す中国

2023年12月4日

ロシア(旧ソビエト連邦)、アメリカに続き、2003年に世界で3番目に有人宇宙飛行に成功した中国は、その後独自の宇宙ステーションを完成させるなど精力的に宇宙開発を進めている。新華社通信が6月26日に発表したニュースによると、中国は北京で開催された2023年中国商業宇宙飛行発展会議・第2回中関村商業宇宙飛行会議の中で、宇宙観光や宇宙バイオ製薬、宇宙ごみ除去、宇宙実験サービスなど、宇宙経済の新しい業態の育成・発展を加速させていると強調した。

宇宙ステーションの運営や通信衛星の打ち上げなどで宇宙のインフラ強化を狙う

中国は、2022年1月に国務院報道弁公室から発表された白書「2021中国の宇宙飛行」で、今後5年間で中国の宇宙ステーションを全面的に建設・運営することを明らかにしている。白書によると、2027年までに宇宙ステーションを全面的に建設・運営し、国家宇宙実験室を建設。これによって、宇宙飛行士の長期滞在や大規模な宇宙科学実験と、宇宙ステーションプラットフォームのメンテナンスなどの活動を展開する。

一方、2023年4月26日にロイター通信が発表したニュースによると、中国は月などの宇宙探査ミッションと地球上の拠点との通信を中継する衛星の建設を、2030年までに開始すると国営メディアが報じたという。中国の宇宙探査プロジェクトでは、衛星コンステレーション(※注1)のパイロット版が現在進行中の月探査プログラムと、中国国家航天局とロシアのロスコスモスによって計画されている、月面基地「国際月探査ステーション(ILRS)」の建設を支援すると述べている。

2024年には衛星コンステレーションの建設を開始するために、月の裏側と地球を結ぶ通信中継衛星が打ち上げられ、10年間の無人月探査を支援する。さらに、2024年には、月の裏側にある盆地からサンプルを採取するために探査機「嫦娥6号」を打ち上げ、2026年頃には「嫦娥7号」が、長期的な人類の居住を視野に月の南極で資源を探索する計画だ。

(図1)第14回中国航空ショー(2022年11月)で公開された、中国の次世代運搬ロケットの模型とエンジンの実物展示(出展:新華社通信のニュースページより引用) イメージ
(図1)第14回中国航空ショー(2022年11月)で公開された、中国の次世代運搬ロケットの模型とエンジンの実物展示
(出展:新華社通信のニュースページより引用)

宇宙事業の拠点となる宇宙ステーションが完成

中国が宇宙事業を加速する上で重要な拠点となるのが、地球低軌道を周回する宇宙ステーション「天宮」だ。「天宮」は、コアモジュール「天和」と2022年7月に「天和」とのドッキングを成功させた「問天」、および2022年10月にドッキングを成功させた「夢天」という2つの実験モジュールを合わせて構成されており、総質量は80トンに達すると見られている。

「天和」と「夢天」のドッキングによって完成した「天宮」は、今後の宇宙開発計画で月での基地建設や月探査機の配備に加え、火星に新しい着陸船と軌道船を送ることも考えられている。「天宮」では、商業貨物輸送のミッションも進んでおり、その目的は低コストな輸送システムの確立だ。「天宮」には貨物船「天舟」が、8カ月に1度、科学実験装置や宇宙飛行士のための資材を輸送している。

2023年5月16日には、中国の有人宇宙開発を行う中国載人航天工程弁公室(CMSEO)が、宇宙ステーション「天宮」への商業貨物輸送ミッションのアイディアを募集すると発表した。CMSEOが公開した商業貨物輸送ミッションでは、少なくとも7?かつ1800kg以上の貨物を天宮へと送ろうとしている。3ヵ月以上のドッキングが可能な「天舟」の貨物積載能力は7トンを超え、輸送コストは1000kgあたり1億2000万元(約25億円)となっている。

(図2)宇宙貨物船「天舟6号」と宇宙ステーション「天宮」のドッキングのイメージ画像(出展:新華社通信のニュースページより引用) イメージ
(図2)宇宙貨物船「天舟6号」と宇宙ステーション「天宮」のドッキングのイメージ画像
(出展:新華社通信のニュースページより引用)

火星で酸素を精製する取り組みも

中国は、こうした宇宙事業への取り組みだけではなく、人類の火星移住を実現させる研究にも積極的に取り組んでいる。中国科学技術大学と深宇宙探査実験室(※注2)の研究チームは、AIロボットの実験を通じて火星の隕石を利用した酸素発生用電極触媒の創製に成功したことを、2023年11月14日の国際学術誌「ネイチャー・シンセシス」で発表した。

火星に存在すると見られている水資源を化学触媒で分解して酸素が精製できれば、人類の火星開発や移住が可能になるかもしれない。とはいえ、地球から大量の触媒を火星まで運ぶにはコストがかかり過ぎるし、重力や光、空気の違いによって火星では性質が変わってしまう可能性もある。

そこで、中国科学技術大学と深宇宙探査実験室の研究チームは、AIと機械実験を統合し、酸素発生用電極触媒を創り出すシステム「小来」を開発した。「小来」は、移動ロボットやクラウドサーバ、複数の化学ワークステーションからなるシステム。「小来」のシステムに組み込まれたロボットは、人間の化学者なら2000年を要する複雑な最適化作業を2ヵ月足らずで終え、火星の隕石を利用して実用的な酸素発生用電極触媒を作製したという。

(図3)中国が開発した火星における酸素精製システムのイメージ(出典:Nature SynthesisのWebページより引用) イメージ
(図3)中国が開発した火星における酸素精製システムのイメージ
(出典:Nature SynthesisのWebページより引用)
(※注1)多数の小型の人工衛星を連携させて一体的に運用する仕組み
(※注2)地球の表面から200万キロメートルの距離から始まる宇宙

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