海外のEVへの取り組みは山あり谷ありか?

2024年6月10日

世界全体で、化石燃料で動く自動車から電気で動くEV(電気自動車)への移行が進んでいるように見える。だが、実際のところ世界の国々はどの程度EVの普及に力を入れているのだろうか。ここでは、最近の欧米のEV普及への取り組み状況や、中国メーカーのEV戦略について見てみたい。

フランスでは2030年までにEVの販売数を年間200万台に

EU(欧州連合)は、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指している。2022年6月には、目標達成のために2035年までには化石燃料を使うエンジン車の新車販売を禁止すると発表したが、その方針に従うため、各国においてEVを普及させる動きが進んでいる。

フランスの経済・財務・産業・デジタル主権省(MEFS)は、2024年5月6日に公開した「2024~2027年の自動車分野戦略契約署名」の中で、EUの目標を達成させるには2024年から2027年までの取り組みがもっとも重要であるとし、2027年までにEVの販売台数を4倍に増やすと発表した。

2021年10月12日に「France 2030」と題した投資計画を発表したマクロン大統領は、2030年までに200万台のEVとハイブリッド車を生産する目標を掲げている。MEFSの説明によると、フランスでは2022年には20万台、2023年には30万台のEVが販売されたが、累計で200万台の目標を達成するには2030年には100万台販売しなければならないという。

フランス政府は2023年12月14日にEV購入時の補助金制度を改定。製造時の炭素排出量に焦点を当て、中国で製造された車種よりもフランスなどの欧州車を優遇している。これにより、早期から低価格のEVを投入し急速に市場シェアを伸ばしてきた中国メーカーと比較して、欧州車のシェアが最近になって逆転したという。

(図1)フランスにおけるEVとハイブリッド車のシェア(出典:PFA(フランス自動車業界団体)の発表資料より抜粋) イメージ
(図1)フランスにおけるEVとハイブリッド車のシェア(出典:PFA(フランス自動車業界団体)の発表資料より抜粋)

ドイツでは補助金制度打ち切りの影響に注目

同じくEUが掲げた目標達成に向けてEVを普及させようとしているドイツだが、ドイツ財務省は2023年12月16日にEV購入希望者の補助金制度を停止すると発表した。本来2024年末まで継続する予定だったが、新型コロナウイルス対策で使わなかった過去の予算の転用が違憲となり、補助金を捻出できなくなったと説明された。

近年、ドイツは継続的に新車販売台数におけるEVやハイブリッド車の普及率を伸ばしてきた。国際エネルギー機関(IEA)の発表データによれば、2019年は約3%だった普及率が、2020年には13%、2021年には26%、2022年には31%と上昇を続けている。販売台数別でみても、2020年からの3年間で大幅に売り上げを伸ばしており、2022年のEV販売台数は47万台、ハイブリッド車販売台数は36万台となっている。

ここまで順調にEV普及が進んできたドイツだが、フランスとは対照的に国内メーカーの競争力が低下しており、中国自動車メーカーが力をつけてきているという。補助金の停止が、今後ドイツ国内自動車産業にどのような影響を及ぼすのか注目されている。

(図2)ドイツにおけるEV、ハイブリッド、燃料電池車の売上推移(出典:IEA(国際エネルギー機関)の調査資料より引用) イメージ
(図2)ドイツにおけるEV、ハイブリッド、燃料電池車の売上推移(出典:IEA(国際エネルギー機関)の調査資料より引用)

大統領選挙にも影響するアメリカのEV普及対策

一方アメリカにおいては、政府主導でEVの比率を上げることは簡単ではないようだ。ロイターは3月21日、バイデン政権が新車販売のうち普通乗用車に占めるEVの比率を2032年までに67%とするとしていた従来の目標を35%に引き下げたと発表した。

米環境保護局(EPA)は、こうした目標修正に伴って自動車メーカーがハイブリッド車を通じて、排出量基準を達成できる余地を大きく広げることができる規則を採用し、燃費向上のためのさまざまな技術を新たに認めた。

こうした目標修正の背景には、今年11月の大統領選挙の鍵を握るミシガン州などで、厳格な温室効果ガス排出量基準とそれに基づく早急なEV普及の促進に反対する声が強いことが影響したとみられている。ミシガンやウィスコンシン、ペンシルベニアなどの地域では自動車業界の労働者がEVへの移行で雇用を奪われるとの懸念が広がっており、再選を目指すバイデン大統領にとってやむを得ない決断だったようだ。

中国の新興EVメーカーが3万ドル未満の小型EV販売を計画

こうした欧米の動きを牽制するように、中国の自動車メーカーは低価格EVの開発に力を入れている。ロイターは中国の新興EVメーカーである蔚来汽車(NIO)が、テスラのSUV(スポーツタイプ多目的車)「モデルY」に対抗してサブブランド「楽道(Onvo)」を立ち上げ、2024年5月15日にSUV「L60」を発表したと伝えた。

9月からの納車開始を予定している「L60」の販売価格は21万9900元(3万476ドル)で、中国での販売価格が24万9900元からの「モデルY」よりも12%安く設定されている。

NIOは、さらにフランスの子会社のゼネラルマネージャーであるニコラ・ヴァンスロ氏が、欧州市場のニーズに適した、高級車ではないEVの新ブランドを2つ立ち上げようとしていると伝えられている。新ブランドの1つ「ファイアフライ(ホタル)」(コードネーム)は市街地向けの小型EVとなり、価格は3万ドル未満で2025年中の発表を予定している。

(写真1)NIOが発表した「L60」(出典:NIOのニュースリリースより引用) イメージ
(写真1)NIOが発表した「L60」(出典:NIOのニュースリリースより引用)

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