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#生成AI #医療 #機械学習 #コスト削減

膨大なパターン解析にAIを活用して
創薬のプロセスを効率化

2023年11月20日

一万数千年前の縄文人たちの住居跡からも、薬草と見られる植物が発見されるなど、人類の健康を保つために薬は欠かせない存在であり、常に新しい効能を持つ薬の開発が進められている。現在、「先発医薬品」と呼ばれる新薬は、開発したメーカーが20~25年の特許期間中独占的に製造・販売でき、膨大な利益を生み出すことから、世界中の製薬会社が開発に力を入れている。そのプロセスを効率化するために、近年ではAIが活用されるようになってきた。

AIで新薬開発のリスクを軽減

製薬会社が新薬を開発する創薬のプロセスでは、研究員の手による膨大なトライアンドエラーが必要になる。そこでは、1つの薬を生み出すのに10年以上の時間と数百億~数千億円規模の費用が必要になるが、それだけの時間とコストをかけても、新薬開発の成功率は現在約2万5000〜3万分の1くらいまで下がってきているともいわれている。その時間と膨大なコストが、製薬会社にとって大きなリスクとなっているのだ。

(図1)製薬会社が新薬を開発するリスク(出典:厚生労働省「臨床研究に関する現状と最近の動向について」より引用) イメージ
(図1)製薬会社が新薬を開発するリスク
(出典:厚生労働省「臨床研究に関する現状と最近の動向について」より引用)

そこで、近年になって製薬会社が積極的に取り組んでいるのが、 AIによる創薬の効率化だ。AIの特徴である、大量のデータ処理によって高度な分析や推論を実現する能力を生かし、開発期間の短縮やコスト削減、研究者の業務負担軽減などを実現しようとしているのだ。

もともと、創薬では、分子構造の相関性をマッチングさせたり、患者の疾患の症状や疾病の経過観察などを報告するリポートを自動登録する工程などにAIが活用されてきた。近年では、疾病に影響する可能性のある分子を同定する標的探索(ターゲット選定)と呼ばれるプロセスや、最終的に新薬を完成させる可能性のあるリード化合物の探索・最適化のプロセスにも、AIが活用できるようになってきた。

バイオ医薬の開発に機械学習を活用

日本の製薬会社大手の中外製薬も、AIを活用した創薬に積極的に取り組む企業の1つだ。中外製薬は、2030年を見据えた取り組み「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」において3つの基本戦略を掲げ、その1つ「デジタルを活用した革新的な新薬創出」の中で、AI技術を活用して医薬品開発の成功確率向上を推進するとともに、創薬のプロセスに関わる時間やコストを大幅に短縮し、圧倒的な効率化と革新を実現すると発表した。

(図2)中外製薬が目指すデジタルを活用した創薬の取り組み(出典:「中外製薬のDX推進への取り組み」より引用) イメージ
(図2)中外製薬が目指すデジタルを活用した創薬の取り組み
(出典:「中外製薬のDX推進への取り組み」より引用)

中外製薬が創薬の分野で特に注力しているのが、抗体医薬品を中心としたバイオ医薬の開発だ。抗体は、体内に入ったウイルスや細菌を構成するタンパク質などの分子(抗原)に結合して無力化したり、ウイルスや細菌に抵抗する細胞を集中させることで、人間の体を異物から守る役割を持っている。

タンパク質である抗体は20種類のアミノ酸を並べた配列から構成されており、創薬のプロセスにおいては、膨大な量になる抗体の配列パターンをコンピューターで作り出し、新薬の候補になりうる特性を持つ抗体配列を探し出さなければならない。この分野においては、生物学的な実験技術の向上によって、抗体などのタンパク質のアミノ酸配列を自由に改変する技術が確立されてきたが、タンパク質はアミノ酸を1つ変えるだけでも、性質が大きく変わることがあるという。

このように、莫大な改変パターンの中で、どれが開発したい薬剤として望ましく、高い品質基準をクリアするかの予測は極めて難しい。これまでは研究員が人力で抗体配列パターンを考えて作っていたため、かなり大量の実験で特性を確かめるという手法をとっていた。

中外製薬では、この抗体配列パターンの生成と特性予測に機械学習を持ち込み、抗体のタンパク質構造を最適化するスピードや精度の向上を目指している。

AI関連企業とのパートナーシップを確立

こうした取り組みを進めるため、中外製薬は深層学習技術(ディープラーニング、AI)の研究・開発を行うPreferred Networksと、包括的パートナーシップ契約を締結。その後、AIソリューション事業に関わるFRONTEOとも創薬支援AIシステムの利用についてライセンス契約を締結し、FRONTEOが開発した自然言語解析AI「Concept Encoder」を用いた論文探索AIシステム「Amanogawa」や、疾病メカニズムを可視化する「Cascade Eye」を創薬プロセスに活用している。

将来的には、創薬に活用するAIを開発・運用するうえで、Google Cloudを活用していきたいと考えている。まずは、Googleのグループ企業DeepMind Technologiesが提供するタンパク質立体構造予測ソフトウェア「AlphaFold2」を自社で使えるようにしていく予定だ。AlphaFold2は極めて高精度にタンパク質構造を配列情報から推定できるものの、CPU、GPUともに計算量が大きく、計算リソースの調達や実装面で課題がある。中外製薬はそうした課題の克服に取り組み、将来的には社内の誰もがアクセスでき、1日1,000個くらいの配列情報の推論が可能なシステムの確立を目指しているという。

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