• HOME
  • Beyond X 最前線
  • 宇宙ビッグデータ活用で、耐用年数を超えた水道管の漏水リスクを管理

宇宙ビッグデータ活用で、
耐用年数を超えた水道管の漏水リスクを管理

2023年12月18日

高度経済成長期に整備された全国の水道管は、法定耐用年数の40年を超え老朽化が進んでおり、年間2万件を超える漏水・破損事故が発生(令和5年3月14日厚生労働省令和4年度全国水道関係担当者会議より)している。耐用年数を超えた水道管路の割合は年々上昇中だが、多くの水道事業者が小規模であり経営基盤が脆弱で、計画的な更新のために必要な資金を十分確保できていない事業者も多い。そのため、より効率的な水道の基盤強化が求められている。

そんな中、JAXA認定の宇宙ベンチャーである天地人( https://tenchijin.co.jp/?hl=ja )は、2023年4月、自治体関係者・水道事業者向けに、宇宙ビッグデータを活用した水道管の漏水リスク管理業務システム「天地人コンパス 宇宙水道局」の提供を開始した。

「天地人コンパス 宇宙水道局」の水道管の漏水リスクの恐れのある場所を指すマップ。漏水リスクの高低差を5段階に分けており、赤色は漏水リスクの最も高い場所を指す。(出典:天地人) イメージ
「天地人コンパス 宇宙水道局」の水道管の漏水リスクの恐れのある場所を指すマップ。漏水リスクの高低差を5段階に分けており、赤色は漏水リスクの最も高い場所を指す。
(出典:天地人)

「天地人コンパス 宇宙水道局」とは

「天地人コンパス 宇宙水道局」は、地球観測衛星が観測したデータ(宇宙ビッグデータ)と、水道事業者が保有する水道管路情報や漏水履歴、オープンデータなどの情報を組み合わせて、AI(機械学習)で解析する。これにより、約100m四方の地区ごとに漏水リスクを評価し、システムで確認・管理できる。

また、水道管路情報の取り込みや地図機能・印刷機能など、基本的なGIS機能も備えている。

豊田市と衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト

同社は、「天地人コンパス 宇宙水道局」の提供に先立ち、愛知県豊田市上下水道局 水道維持課と、令和4年度に「課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」を実施した。このプロジェクトでは、水道管路の漏水リスク評価手法の構築、漏水調査支援ツールの開発、ビジネスモデル検討を行った。

プロジェクトにおいて天地人は、事業全般の管理・統括と水道管路の漏水リスク評価手法及び漏水調査支援ツール開発を担当。豊田市 上下水道局 水道維持課は、漏水修繕データ等の提供や漏水調査支援ツール開発のための情報提供を行った。

豊田市における法定耐用年数を超える水道管は、2018年度末時点で約450km。20年後には約2,300km(全体の約60%)になることが見込まれ、今後さらに老朽化が進行する。そこで、このプロジェクトによって点検費用10%削減、調査工数20%削減を目指していた。

プロジェクトでは気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)等の光学衛星データで地表面温度、光学画像、気象データ、植生変化を捉え、Sentinel-1のSAR衛星により地殻変動データを取得。それに、自治体が保有する埋没環境データ(土壌、地質、地形、傾斜等)、水道管路データ(管材質、供用年数等)、道路交通データを加え、漏水リスク評価を行った。

これにより、豊田市の漏水リスク評価単位が、これまでの200mから100mに詳細化され、より効率的な作業が行え、調査費用削減が期待できる。また、他の自治体へのヒアリングでは、最大で点検費用65%削減、調査期間85%削減が見込まれることが判明したという。

「衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」の成果(出典:厚生労働省) イメージ
「衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」の成果
(出典:厚生労働省)

その後の豊田市、天地人、フジ地中情報社の3者による実証実験では、豊田市全域で249の漏水可能性区域を判定し、実際に漏水調査(路面音聴調査)を実施したところ、その内65区域77か所で漏水を確認した(的中率は約3割)。これにより、衛星画像を用いた漏水調査の有効性及び業務の効率化が確認できたという。

実証実験では衛星から取得した宇宙ビックデータを活用した「豊田市水道管凍結注意マップ」も作成。衛星データを活用し、水道管の凍結リスクを評価する取り組みは全国初だという。豊田市水道管凍結注意マップは、このシステム開発で使用している地表面温度のデータを活用し、地表面温度が-4℃以下になった日数に応じて、水道管の凍結注意度を3段階で表示している。

「豊田市水道管凍結注意マップ」(出典:天地人) イメージ
「豊田市水道管凍結注意マップ」
(出典:天地人)

自治体での採用が広がる

この結果を受け豊田市は今年の4月、天地人と「緊急時における漏水リスク評価に関する覚書」を締結した。この協定に基づき、豊田市は緊急時に漏水リスク評価の判定に必要なデータを提供し、天地人は衛星データの取得と漏水リスクを評価する。緊急時とは、地震発生後の余効変動(地震後も継続する地殻(地盤)の動き)又は工事に起因する水圧変化等により、市が広範囲で漏水が多発する可能性が高いと判断した時を指す。

さらに今年度、福島市水道局、前橋市水道局、青森市企業局水道部、瀬戸市都市整備部水道課が「天地人コンパス 宇宙水道局 」の採用を決定している。

また、天地人は2023年9月20日、「天地人コンパス 宇宙水道局 」を活用した災害時支援サービスを開始した。このサービスは、自治体の緊急対応を支援するため、要請に応じて迅速に全域の漏水リスク評価を行うもので、災害時等の土地の変化をピンポイントで評価することが可能だ。

災害時支援サービスでは、自治体から要請があった場合、全域について診断を実施。高リスクな箇所を可視化することで、優先対処、重点対処をすべき地域を抽出し、復旧計画の策定に貢献する。新サービスは、「天地人コンパス 宇宙水道局」を活かした新しいスキームとなっている。

天地人は、これまで培った分析ノウハウや高度なアルゴリズムを水道管インフラに応用することで、今後もより健全な水道管インフラの維持管理を目指すとしている。

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ