都心に森を作る大規模木造ビルに期待

2024年8月5日

木造建築と聞くと、普通は一戸建て住宅の姿などを思い浮かべるだろう。しかし、近年は都心部で10階建てを超える中規模木造建造物が建てられたり、18階建ての大規模木造ビルの建築計画が発表されたりしている。建築時に炭素排出が少なく、木が炭素を固定して貯蔵する特性を持つことなどから、木造は「地球環境に優しい工法」として注目されている。こうした風潮によって、持続可能な木材利用を経営戦略に取り込んだり、自社の事業用建築物を木造で計画したりする企業も増加するなど、さまざまな面から大規模木造建築に注目が集まっているようだ。

近年増加が進む中高層木造建築物

そもそも、日本には約1300年前に建造されたと伝えられる世界最古の木造建築である法隆寺をはじめ、古い時代に建てられた木造建築物が今も多く残っている。台風や地震など、常にさまざまな自然の脅威にさらされている日本において、他の国と比較しても多くの古い木造建築物が現存している理由の1つが、「解体修理」と呼ばれる大がかりな修繕が可能なことだ。

解体修理ではすべての部材をいったんバラバラにして、健全な部材は残しつつ傷んでいる部材を交換したり繕ったりすることで、建造物を元のように再構築できる。石やれんが造りの建築物は地震や台風などの自然災害には強いが、古くなって痛んできても解体修理は困難であることから、日本の木造建築物は修繕を繰り返しながら1000年以上も残っていると考えられている。

現在においても、日本の一般住宅では木造建築が多いが、特に近年は持続可能な資源として木材への注目が高まっており、建設・設計事業者や建築物の施主となる企業が非住宅・中高層建築物の木造化や木質化に取り組む例が増えている。日本では2000年以前まで、4階建てを超えるビルでの木材使用は原則禁止されていたが、2000年の建築基準法の改正によって、耐火性能を満たすことで木材を使用することができるようになったことも、この傾向を後押ししているようだ。

実際に、林野庁が発表した「建築物における木材の利用の促進に向けた措置の実施状況の取りまとめ」でも、2022年度に対前年で約4,600㎡増加した中高層木造建築物の床面積が、2023年度にはさらに約2万600㎡増加するなど木造建築物は増加傾向を示している。

SDGs以外にも木造建築にはさまざまなメリットが

2022年5月には大林組によって、横浜市に高さ44m、地下1階・地上11階建ての木造ビル「ポートプラス」が完成。大林組によると「ポートプラス」建設時のCO2排出量は2500トン程度となっており、仮に同様の鉄製建築物であった場合は約4200トン、コンクリート製であれば8600トン程度のCO2を排出していたという。また、髙木ビルが2023年5月に東京・銀座に完成させた木造ビル「銀座髙木ビル」は、地上12階建てのうち9~12階部分が東京・多摩地域で生育した「多摩産材」のスギ材を使用した木造建築で、飲食店などの商業施設が入っている。

(写真1)横浜の木造ビル(左)と銀座の木造ビル(右)(出典:左・大林組のWebページより引用、右・高木ビルのプレスリリースより引用) イメージ
(写真1)横浜の木造ビル(左)と銀座の木造ビル(右)(出典:左・大林組のWebページより引用、右・高木ビルのプレスリリースより引用)

こうした木造ビルのメリットは、CO2削減効果など環境への配慮だけではない。ビルで木材を使用するメリットとしては、他にも「建築費用の一部を安く済ますことができる」「断熱効果がアップして光熱費を抑えることができる」「調湿性・通気性に長けている」などがある。例えば木造ビルを建築する場合、木材価格が高い分、トータルの建設費用が膨らみやすい。一方で、木材を使うと鉄筋コンクリート構造や鉄骨構造の建物よりもビル全体の重量が軽くなるので、ビル全体を支える基礎工事費用が抑えられる。地面に深く穴を掘る杭打ちが、最低限の工事で済むという。

また、鉄やコンクリートと木材の熱伝導率を比較すると、空気を多く含む木材ははるかに熱伝導率が低いため、断熱効果性が高い。それによって、木材を使用した建物は夏には涼しさを、冬は暖かさをキープしやすくなり、冷暖房などの光熱費を抑えやすい。さらに、木材は調湿性や通気性に優れているので、1年間を通じた快適性にも期待できる。

日本橋に高層の木造賃貸オフィスビルが着工

三井不動産と竹中工務店は2024年1月11日、高さ84mで地上18階建(延床面積約2万8,000㎡)の木造賃貸オフィスビルの建築に着工したと発表。オフィスの他、研究所と店舗が入居する計画で、竣工は2026年9月の予定だ。

三井不動産グループは北海道に約5000ha(東京ドーム約1,063個分)の森林を保有している。今回の計画においては、三井不動産グループの保有林約100㎥を含む1,100㎥超の国産材を構造材として使用し、仕上げ材や内装としても積極的に保有林の木材を活用するという。これによって、一般的な鉄骨造オフィスビルと比較して、躯体部分において建築時のCO2排出量に関して約30%の削減効果を想定している。

(写真2)三井不動産が計画している木造ビルの外観(左)とエントランスホール(右)の完成予想図(出典:三井不動産のWebページより引用) イメージ
(写真2)三井不動産が計画している木造ビルの外観(左)とエントランスホール(右)の完成予想図(出典:三井不動産のWebページより引用)

また、屋上で有機質肥料を用いた無化学肥料・無農薬の栽培を行うことにより、都心部において環境負荷の少ない生産システムの構築に挑戦。空調設備に関しても、室外機の周りで芋を栽培し、繁茂した葉の蒸散作用と日陰により周辺の温度を下げることで、消費電力の低減を図る室外機芋緑化システムを導入する予定。

さらに、フィルム型のペロブスカイト太陽電池の実装・システム構築に関する実証実験の実施や、庫内にCO2を吸収する鉱業副産物を使用した特殊材を搭載した「CO2を食べる自動販売機」を共用部に設置するなど、さまざまな最先端技術や製品を取り入れた、次世代の環境配慮型オフィスビルを目指す。

(写真3)屋上における室外機芋緑化システムのイメージ(出典:三井不動産のWebページより引用) イメージ
(写真3)屋上における室外機芋緑化システムのイメージ(出典:三井不動産のWebページより引用)

今後、都心でこうしたビルが増えていくことで、都心に新たな森が出現することになるかもしれない。

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