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米国の人口上位都市で地盤沈下が発生、3400万人に影響
老朽化した社会インフラの事故としては、2012年に発生した笹子トンネル天井板崩落事故が、人々の脳裏に刻まれている。今年に入って発生した、埼玉県八潮市の道路陥没事故は、水道管の破損が原因とされ、5月の京都府下京区の道路冠水は、水道管の劣化が原因であった。このような社会インフラの老朽化は、日本だけではなく、海外でも社会問題になっている。
今年の5月に公開されたオンラインジャーナルNature Citiesに掲載された米バージニア工科大学の研究チームの論文*1によると、米国の人口上位28都市を対象とした包括的なレーダー衛星分析により、各都市の陸地面積の20%以上が沈下していることが、明らかになった。こうした地盤沈下により、3,400万人の住民が影響を受けているという。

( a )米国 28 都市の 地盤の垂直変動(VLM) の平均(mm per year)
( b )はニューヨーク、( c )はラスベガス 、( d )はシアトル 、( e )はヒューストン、( f )はワシントン D.C.
(出典:Nature Cities)
この論文は、干渉合成開口レーダー(InSAR)による衛星観測のデータに基づいており、地盤沈下が進行している 25 都市のうちニューヨーク、シカゴ、ヒューストン、ダラス、フォートワース、コロンバス、シアトル、デンバー では、面積加重平均地盤沈下が年間 2 mm を超えているという。
なかでも深刻なのがヒューストン、フォートワース、ダラスで、すべての都市の中で最も高い地盤沈下速度を示し、平均地盤沈下速度が年間 4 mm を超えているという。
論文では、各都市において、少なくとも 20% の面積が沈下しており、これら 28 の米国都市全体で、合計 17,900 km2の陸地面積が沈下していると推定している。
自然現象と地下水の汲み上げによって引き起こされたこれらの沈下地域は、約29,000棟の建物を脅かし、洪水リスクを悪化させているという。
また、論文では、都市の地盤沈下が少しでもあれば、建物、道路、橋、ダムの構造的健全性に深刻な影響を与える可能性があり、時間の経過とともに、都市システム内の脆弱性が拡大し、既存の洪水リスクが特に悪化して都市の住みやすさに影響する可能性があるとしている。
都市の面積の約 98% が影響を受けている都市は、シカゴ、ダラス、コロンバス、デトロイト、フォートワース、デンバー、ニューヨーク、インディアナポリス、ヒューストン、シャーロットである。中でも、ニューヨーク、シカゴ、ヒューストン、ダラス、フォートワースの 5 都市では、少なくとも 10% の市域が年間 3 mm を超える速度で沈下しているという。
地盤沈下によるインフラの損害は地盤変動のわずかな変化でも発生する可能性があり、インフラは時間の経過とともに気づかないうちに危険にさらされ、損害が深刻または潜在的に壊滅的になったときにのみ明らかになると研究チームは主張している。
論文の中では、対策の重要な第一歩は、場所固有の要因を特定することであり、特に地盤沈下によるインフラ災害の影響を受けやすい都市では、対応策として、既存インフラの改修、地盤沈下に対する配慮を建築基準法に盛り込むこと、インフラへの負荷を制限すること、重要インフラの監視を強化することに重点をおくべきだとしている。
約1兆ドルのインフラ投資計画法案を2021年に可決
1980年代の米国では、インフラの老朽化問題が深刻化し、「荒廃するアメリカ」と呼ばれることもあった。そして、米国では、遅れが浮き彫りになっていたインフラに対して、総額約1兆ドル(約145兆円)を投資するため、2021年11月、超党派によるインフラ投資計画法案を成立させている。この法案では、高速道路や一般道路、橋、都市の公共交通、港湾・空港や旅客鉄道などの整備、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、未来に向けたクリーンエネルギーの開発・整備に対して、資金を投入していく。
老朽化したインフラ整備が急務なのはイギリスも同様だ。そのためイギリスでは昨年の10月、インフラ戦略とインフラ提供を統合し、数十年にわたって成長を阻害してきたシステム提供の課題に対処することで、インフラシステムの基盤の修復を目指す新たな国家インフラ・サービス変革局(NISTA)の設立を発表した。
NISTA は、インフラ戦略とプロジェクトの実行を一元的に管理し、業界と連携して 10 年間のインフラ戦略の策定と実施をサポートするとともに、イギリス全土でより効果的なインフラの提供を推進するという。
一方日本では、国土交通省は、インフラの老朽化が本格化する日本において、その対応を進めるに当たっては、1980年代に「荒廃するアメリカ」と呼ばれる深刻なインフラ老朽化への対応に取り組んだ米国の経験を参考に、「荒廃する日本」となることを避けるべく、インフラの機能維持について長期的かつ戦略的な取組みを行っていくことが重要であるとしている。
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