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時間的な距離の短縮を目指す伊那市のスマートシティ構想
長野県南部に位置し、南アルプスと中央アルプスに囲まれた自然豊かな伊那市では、AIやIoTなどの先端技術を活用したスマートシティを推進することで、少子高齢化を始めとした地域課題の解決を図ろうとしている。長野県の中で3番目に広い面積で幹線道路も整備されるなど、商業活動にも適した伊那市が目指すスマートシティは、「物理距離のコンパクト」から「時間距離のコンパクト」へのパラダイムシフトだ。
AIやデジタルを活用した移動支援
「物理距離のコンパクト」から「時間距離のコンパクト」へのパラダイムシフトとは、物理的な距離の短縮だけではなく、サービスや情報へのアクセスにかかる時間的な距離の短縮も目指すという考え方である。伊那市では高齢化や過疎化が進む中、住民が生活に必要なサービスをより便利に、より短い時間で利用できるようにするため、デマンド型交通の運行や、オンライン診療・移動型クリニックの導入などにより、買い物や病院に行く時間を短縮しようとしている。
そのための取り組みの1つである移動支援に関して、伊那市ではタクシー事業者と連携している。運賃の一部を助成することで、利用者の負担を軽減するAIオンデマンド交通「ぐるっとタクシー」を提供。「ぐるっとタクシー」では、AIが自動で最適な乗合や、運行経路を計算し、利用者は自宅から目的地まで、または目的地から目的地までの間をドアツードアで移動することができる。
また、市街地に住む市民が規定の範囲内で一般のタクシーを利用した際に、運賃の一部を市が助成する「市街地デジタルタクシー」のサービスも提供している。事前に利用登録した市民がタクシー事業者に直接電話予約し、一般のタクシーと変わらない方法で利用できる。「市街地デジタルタクシー」では、市がマイティークラフトと共同開発した精算管理システム「DTaM(Digital Taxi Management)」に、利用者のデータが自動的に蓄積される。そのデータをもとに、市がタクシー事業者に助成金を支払う仕組みとなっている。

(図1)伊那市とマイティークラフトが共同開発した市街地デジタルタクシーシステム「DTaM」
(出典:マイティークラフト ホームページ)
移動診察車を活用した遠隔医療支援
伊那市では、医師不足で訪問診療がままならない状況や、医療機関の偏在によって通院に多大な費用と時間を要するなど、地域医療に関するさまざまな課題がある。こうした課題の解決に向けた取り組みの1つが、医師が乗らない移動診療車「モバイルクリニック」を活用した遠隔医療プラットフォームの整備だ。
伊那市は2019年4月にトヨタ・モビリティー基金の助成を受け、MONET Technologies、フィリップス・ジャパンなどの協力のもと、オンライン診療専用車両「INAヘルスモビリティ」を開発。2021年4月から、地方創生推進交付金Society5.0タイプなどの国の補助を受け、「モバイルクリニック」事業の本格運用を開始した。
「モバイルクリニック」では「INAヘルスモビリティ」に医療機器を積み、運転手と看護師が乗り込んで患者宅へ出向く。現場では看護師が、医療機関にいる医師との間でビデオ通話を使用したオンライン診療を行う。すでに内科や産婦人科など10を越える医療機関が参画し、保険診療や遠隔服薬指導などを行っている。

(図2)「モバイルクリニック」の実施概要(出典:伊那市 ホームページ)
ドローンが当日に商品を届けてくれる買い物支援
山中や過疎地などに住んでいる一部地域の住民に向けての取り組みとして、伊那市ではドローンによる迅速な配送と、ケーブルテレビによる手軽な注文を組み合わせた買い物サービス「ゆうあいマーケット」を提供している。「ゆうあいマーケット」はテレビのリモコンや電話を使って午前10時30分までに商品を注文すれば、自動車とドローンを組み合わせた配送でその日のうちに商品を自宅あるいは最寄りの公民館まで届けてくれるサービスだ。商品代金は、ケーブルテレビ利用料とまとめて引き落とされるので、都度支払う手間も省ける。
配送用ドローンはKDDIのモバイル通信ネットワークに対応し、目視外自律飛行、遠隔監視制御が可能なスマートドローンを利用。日用品などを最大5kgまで積載し、約7km離れた地点までの配送を行う。注文システムはテレビ放送にインターネット通信を連携させたハイブリッド・キャストデータ放送システムを採用。日頃から使用しているテレビ用リモコンを使うため、高齢者にも操作が分かりやすくなっている。
また、ドローン配送だけではなく、地域住民の見守りを行う集落支援員による陸送も実施することで、「ゆうあいマーケット」は新しいテクノロジーとマンパワーを融合したサービスとなっている。さらにケーブルテレビのシステムを活用し、買物だけではなく「ぐるっとタクシー」の予約や見守りサポートといった機能も搭載するとともに「モバイルクリニック」との連携も目指している。

(図3)「ゆうあいマーケット」のサービス概要
(出典:KDDI ホームページ)
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