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AIを活用した高精度でセキュアな防災
気候変動に伴う降雨の激甚化と、インフラ・人員の制約が同時進行するなかで重要性が高まる日本の河川管理。従来は水位計や雨量計の観測値をもとに、担当者が判断する運用が中心だった。近年はAIが過去の降雨、水位、流量、ダム放流、潮位、地形などのデータを学習し、数十分先から数時間先の水位変動を予測したり、監視映像から危険兆候を抽出する仕組みが広がりつつある。河川管理の現場では、数十分の余裕が避難情報の発令や資機材配置の成否を左右することがあるため、AIはその時間を生み出す重要な役割を果たそうとしている。
降雨レーダーと既設観測網を生かして先読み精度を高める国土交通省
国土交通省は一級河川を中心に、観測網とAIを組み合わせた水位予測の高度化を積極的に進めている。そこには日本のほぼ全域において、高分解能(250m間隔での雨量観測)、多頻度(1分単位での観測)でリアルタイム性の高い雨量情報を提供する、雨量観測システム「XRAIN」が活用されている。こうしたシステムに加え、河川水位計、雨量計、ダム観測、潮位観測など多層的なデータ基盤が整備されており、AIと組み合わせることで短時間先の水位上昇を予測する。
本流だけでなく、支流や上流域の降雨を加味して予測することで、従来より早い段階で危険水位への接近を把握し、河川事務所や自治体の初動を前倒しする。これによって、新たな設備に入れ替えることなく、既存の観測資産を生かしながら、予測精度と判断速度が引き上げられる。ダムの事前放流や排水機場の運転計画も、過去の洪水パターンだけでなく、流域全体の降り方や時間差を踏まえた調整が可能になるため、単純な「見える化」から一歩進んだ先読み型の運用に移行しやすい。
一方で国の河川管理でAIを本格運用するには、観測欠損時のフェイルセーフが不可欠といえる。豪雨時には停電や通信障害、漂流物による機器不良が起こり得るため、AIの予測値を唯一の判断材料にせず、物理モデルや職員の経験則と併用する設計が求められる。今後は、河川だけでなく下水道やため池、農業水利施設までを含めた「流域治水」全体のデータを連結し、氾濫の危険度をより面的に把握することが求められている。

図1 国土交通省が活用する雨量観測システム「XRAIN」の主な機能(出典:国土交通省の資料より引用)
数分単位の判断が求められる東京都の中小河川監視
東京都のような大都市では、単に河川水位を予測するだけでは十分ではない。神田川や目黒川のような東京都の都市河川は、流域面積が比較的小さいことから、短時間強雨に対して水位が急上昇しやすい。そのため、大河川のように長いリードタイムを取りにくく、現場では数分から十数分単位の判断が重要になる。こうした環境では、特にAIを活用した監視カメラ映像の解析や、降雨・水位データのリアルタイム予測を組み合わせた危険箇所の把握の迅速化が必要だ。
また、橋脚周辺の滞留、アンダーパス冠水、地下空間への浸水リスク、歩行者導線への影響など、河川の外側で起こる2次的な被害も同時に考えなければならない。そのため、AIソリューションも「河川管理専用」ではなく、防災部局や道路部局、下水道部局、交通事業者が共有できるダッシュボードや、通知基盤と結びつくことで価値が高まる。監視映像から水面位置や越水兆候を抽出し、担当者が現場映像を一つずつ確認しなくても異常候補を絞り込めるようになれば、夜間や豪雨時の少人数運用にも対応しやすい。
都市河川のAI導入においては、独特の難しさもある。ビル風や局地雨による降雨分布の偏り、工事による一時的な流路変化、護岸や橋梁の影による映像判読のばらつきなど、学習データだけでは吸収しきれない揺らぎが多い。また、危険を過小評価すれば避難の遅れにつながり、過大評価が続けば住民の警戒疲れを招く。このため、東京都型の事例では、予測精度そのものに加え、どの水位上昇を「行動に移すべきシグナル」として扱うかという運用ルールの設計が、導入効果を左右するポイントになる。

図2 東京都が運営する都内の中小河川監視システムの例(出典:「東京都 水防災総合情報システム」より引用)
地方に広がるエッジAIカメラを活用した河川水位ソリューション
一方、AIを活用した河川水位ソリューションとして近年、導入事例が広がっているのが、エッジAIカメラの採用だ。エッジAIはエッジデバイスと呼ばれる端末にAIを搭載し、その端末内でAIによる分析や判断を行う。エッジAIカメラは現場で画像を解析し、必要な水位データや確認用画像をクラウドへ送信する。これにより、生映像を常時送信する場合に比べて通信量を抑えられ、通信コストの削減、セキュリティ保護にもつながる。
東西を一級河川「紀の川」が貫く、水の豊かな和歌山県の橋本市では、豪雨時に河川へ赴いて水位確認を行っていた職員の安全を確保し、監視作業の負担を軽減することを目的として、市内17カ所にカメラを設置(うちエッジAIカメラは12カ所)。5分間隔で画像と水位データを収集してクラウドへアップロードし、危機管理室で一元監視している。その際エッジAIカメラが、撮影画像内の水面を推定し、あらかじめ設定した仮想ルーラー(目盛り)との重なりを読み取って水位を検出。取得されたデータは、防災担当者が閲覧する監視クラウドシステムにまとめて掲載されるほか、水位が設定値を超えた場合には「防災はしもとメール」を通じて市職員へ周知される。
橋本市の事例では、システム導入によって輪番制で行っていた水位確認作業で、90%の人員削減を実現している。こうした効率化だけでなく、今後AIによる河川水位ソリューションは、住民行動データを統合した流域単位の意思決定支援へと発展し、「監視の補助」から「防災オペレーションの共通基盤」へ役割を広げていくとみられる。河川行政にとって必要なのは、災害時に壊れにくく、現場で使い続けられる仕組みを積み上げることだ。予測精度だけでなく、避難と運用をどこまで実装できるかが重要になってくるだろう。

図3 橋本市の東西を貫く一級河川「紀の川」に設置された河川カメラの例(出典:「国土交通省 川の防災情報」より引用)
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