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再生可能エネルギー100%達成のさくらインターネットが描く次の省エネ戦略

2023年9月19日
話し手
  • さくらインターネット 執行役員
  • 澤村 徹
  • さくらインターネット 石狩データセンター センター長
  • 森田 貴

大きな電力を使用するデータセンターでは、PUE(Power Usage Effectiveness)を指標に、使用電力の削減に取り組んでいる。そんな中、さくらインターネットでは、日本最大規模である同社の石狩データセンター(北海道石狩市)に新技術を積極的に取り入れている。そこで、データセンターの責任者であるさくらインターネット 執行役員 澤村 徹(さわむら とおる)氏と、石狩データセンター センター長 森田 貴(もりた たかし)氏に同社の省エネへの取り組みを聞いた。

(注)PUE:データセンター全体の消費電力を、サーバ、ストレージ、通信機器などのICT機器の消費電力で割った値。1.0に近いほど、空調などのICT機器以外の電力消費が少なく、効率的だといわれている。
さくらインターネットの石狩データセンター(出典:さくらインターネット)
さくらインターネットの石狩データセンター
(出典:さくらインターネット)

さくらインターネットの特徴を教えてください。

澤村氏:メインの客層としては、ネット系の個人や企業が多いのが特徴です。弊社は5年以上前からデータセンター事業者ではなく、クラウド事業者と名乗っています。(サーバを設置・運用するためのスペースを提供する)ハウジングやコロケーションといったデータセンターとしてのビジネスは縮小して、IaaS、PaaS、SaaSといったサービスにシフトしています。

石狩データセンターは自社の土地、自社の建物、自社設備で運用しており、垂直統合型でやっています。サービスを提供しながらインフラを持っている会社というのは、非常にユニークな存在だと思います。

さくらインターネット 執行役員 澤村 徹氏
さくらインターネット 執行役員 澤村 徹氏

IaaS、PaaS、SaaSといったサービスにシフトしている理由は何でしょうか?

澤村氏:ハウジングやコロケーションのサービスは、この先の需要が減っていくと弊社は考えております。スタートアップ企業など新たに事業を始められる会社は、AWS(Amazon Web Services)ありき、GCP(Google Cloud Platform)ありきがほとんどです。インフラエンジニアもいない、基本はバーチャルマシーンやコンテナ等の仮想化技術で運用することが中心になってきましたので、サービスにシフトするのは自然な流れだと思います。

これまで、どのような省エネ対策に取り組んできましたか?

澤村氏:弊社は省エネ、低コストというよりは、先進的な取り組みに注力しています。太陽光発電所からの電力を直流給電のサーバシステムに超電導を使って送電することや、外気を冷却に利用するといった取り組みをしています。上場企業においてはTCFDという規制がありますし、気候変動要素の開示義務もありますので、さまざまな取り組みをしています。

また、基幹投資家の投資意欲は、ESG銘柄に限っていますので、環境に取り組まないと株価も上がらないことになります。こういった省エネ環境対策の取り組みが必然的に行われているという状況です。

※TCFD:「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」。企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関するガバナンや戦略、指標、目標など項目について開示することを推奨している。

※ESG:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した事業活動。

石狩データセンターの外気を使った冷却のしくみ(出典:さくらインターネット)
石狩データセンターの外気を使った冷却のしくみ
(出典:さくらインターネット)

太陽光発電の電力を直流で送電するということは、交流・直流の変換によるエネルギーロスが少ないということでしょうか?

澤村氏:おっしゃる通りです。太陽光発電所は通常、交流で送電していますが、直流で送ってもらって、受け側も直流で入ったものを直流で出すというようなシステムになっています。電力変換を2回なくすことで、効率を目指したシステムになります。

超電導送電は、極低温にすると電気抵抗がゼロとなる超電導体を用いて行う送電で、送電ロスの低減や送電容量の増大ができます。

超電導送電の概要(出典:さくらインターネット)
超電導送電の概要
(出典:さくらインターネット)

交流から直流に変換する場合と比べて、どれくらい効率が良いのでしょうか?

澤村氏:従来の交流から直流への変換効率はだいたい80%くらいですが、直流のままだと95%くらいなので、15%くらいのロスがなくなることになります。ただ、日々の運用の中で、どこで何%のロスが発生しているのかの集計が難しく、こちらは設計上の数字となります。

PUE値を下げるために、空調の電力を少なくするという部分が、一番注力する領域になるのでしょうか?

澤村氏:データセンター事業者としてできる部分は、PUEの改善というのが一番大きなところではあります。しかし、我々はその上のサーバサービスも持っていますので、ハードに近い部分の取り組みよりは、クラウド化やソフトウェア制御、上位のアルゴリズムの取り組みの方が、実際の環境に関していうと影響が大きいといえます。

以前、Googleさんが空調制御をAIに切り替えたというニュースがありました。気象データとワークロードから予測して空調機を制御するというものです。PUEの0.1を追うよりはクラウド化やロードバランシングなど、ソフトウェア技術の方が実際の効率に対する影響が大きいので、我々は、そちらの方にフォーカスして取り組んでいます。

今年の6月、石狩データセンターが再生可能エネルギー電力100%に切り替えたというニュースがありましたが、これはどういうことでしょうか?

澤村氏:我々が何か設備投資をしたということではなく、電力会社との契約で、水力発電を中心にした再生エネルギーのみで供給していただける電力需給契約を結んだということです。

森田センター長にお伺いしますが、政府の掲げる2050年のカーボンニュートラルに向けてのCO2削減の取り組みは、ユーザーがデータセンターを選択する際の理由の1つになるとお考えですか?

森田氏:今のところ、直接の影響はないです。しかし、海外ユーザーがデータセンターを選択する中でCO2をゼロにしていることや、CO2排出量を年間何%削減しているのかという条件が、今後の商談の中に入ってくる可能性もあると個人的には思っています。我々の取り組みは、それに向けた先行的な意味合いがあると認識しています。

さくらインターネット 石狩データセンター センター長 森田 貴氏
さくらインターネット 石狩データセンター センター長 森田 貴氏

今後、消費電力の削減に向け、新たな取り組みとして何か行う予定はありますか?

澤村氏:最近のトレンドとして、水冷という取り組みが海外の事業者では進んでいます。水冷にはいくつかパターンがあります。CPU、チップセット、メモリ、GPUのようなサーバの発熱部位に水が通った金属の部品をつけて、その水を循環させる、英語だとClosed Water LoopとかChilled Water Loopという言い方をしていますが、そういったものを使うと、空気で熱を運ぶよりはかなり効率が改善します。

あとはリアドア冷却といって、サーバラックのリアドアに熱を取る装置をつける取り組みもあります。冷房よりは、かなり効率が上がるという側面があります。

もう一つは、液浸といって油とかフロン系の冷媒にサーバを浸けるというような取り組みがあり、こちらはPUEが圧倒的に改善されます。

これらの技術に関して、日本ではまだ商用ベースでやっているところはほとんどありませんが、海外ではすでに導入されている事例があります。

省エネ向けの課題はあるのでしょうか?

澤村氏:省エネの課題というよりは、CO2排出に関して自治体の規制が厳しくなってきています。東京都の事業者は、結構、大変かもしれないです。業界団体では、そういった面に関して話題になっています。

御社は今年の6月に、NVIDIA H100 GPUを搭載した2EFの大規模クラウドインフラを石狩データセンターに整備し、生成AI向けクラウドサービスを提供していくことを発表していますが、生成AIに向けた取り組みは、今後、差別化要因になると思いますか?

澤村氏:NVIDIAのGPUをAIで利用するには、大容量の電源を必要とするサーバを入れることができるデータセンターが求められますが、1年以内にそれを実現できる事業者はほとんどないと思っています。空きスペースの問題もありますし、電力会社に対して特別高圧の電力を申し込んでも、早くて4年、遅ければ5年、6年後に電力供給契約開始というような形になります。「来年GPUのファームを作ってください」というような形だと、自社で発電所を建てないと来年開始は無理だと思います。また、他社ができない理由として、GPUのような、高負荷の1ラック数十KW以上のものを運用できる実績がないというのも理由としてあると思います。

さくらインターネット 執行役員 澤村 徹氏
北海道函館市出身。PC/AT互換機専門店の店舗責任者、バイヤー、PCパーツ輸入製造販売会社の立ち上げを経て2005年さくらインターネットに入社。データセンター運用部門管掌役員を10年勤め、2020年から現職。JDCC人材マネジメントワーキンググループ主査、NEDO技術委員(2019年度、2020年度)。

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