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【未来クリエイター】月面着陸に再び挑む、ispaceの挑戦

2023年12月31日(更新 2024年1月15日)
話し手
  • ispace 代表取締役
  • 袴田 武史

2023年4月、世界で初めて民間主導で、そして日本では初めてのランダー(着陸船)が月面着陸に挑んだというニュースを記憶している人も多いであろう。しかも、大手企業ではなく、日本発のスタートアップ企業(ispace)が、その偉業を成すべくチャレンジした。残念ながら、月面着陸は失敗したものの、ispaceは目まぐるしいスピードでチャレンジをし続け、多くの人々に夢や感動を与えてくれている。そんな彼らの、ビジネスに込めた思いを聞いた。

ispaceは、「Expand our planet. Expand our future. ~人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ~」をビジョンに掲げ、月面資源開発に取り組んでいる袴田 武史(はかまだ たけし)氏が代表を務める宇宙スタートアップ企業。 日本、ルクセンブルク、アメリカの3拠点で活動し、現在250名以上のスタッフが在籍。史上初の民間チームによる月面無人探査コンテスト「Google Lunar XPRIZE」の最終選考に残った5チームのうちの1チームである「HAKUTO」を運営した。2023年4月12日に東証グロース市場へ新規上場(IPO)を果たしている。

ispace 代表取締役 袴田 武史氏
ispace 代表取締役 袴田 武史氏

そもそも、ispaceの起業の経緯、宇宙ビジネスを展開しようと思ったきっかけについて、教えてください。

幼いころに見たスター・ウォーズの影響で宇宙に憧れ、かっこいい宇宙船を作りたいと思っていましたが、中学生になる頃に夢中になっていたのは宇宙ではなくロボットでした。世界の学生が集まるロボコンに出たいと思い、大学進路を決める際は、唯一参加している東工大の受験を決めたほどです。東工大ではロボコンに出られる学科は機械宇宙学科だったので、志望校として模試を受けるためにその学科名を記載しました。その際、改めて宇宙の2文字を再認識することになり、スター・ウォーズを観たときの感動を思い出して、ロボット一択から『ロボット×宇宙』という掛け算になりました。ただ、東工大へは3度トライするも合格には至らず、実際には他の大学で航空宇宙工学を学びました。
そこで学ぶうちに、宇宙船を作るには莫大な費用がかかること、それを誰が買い、また、誰がそのための投資をするのか、ということを考えたときに経済合理性が必要であると思うようになりました。技術者はどうしても機能面に目が向きがちで良いものを作ろうとコストを度外視しがちです。しかし、世の中にとって価値を提供できるレベルで経済合理性のあるモノを作らなくてはいけないという視点で考えたときに、多くの企業では顧客への提供価値と利益を含めていくらで作るのかを戦略的に考えるはずです。宇宙船でもそういう設計の仕方(設計の初期段階で経済合理性を入れ込んで判断すること)が必要なのではないかと思ったのです。
アメリカでの大学院留学時代に、民間初の宇宙機で宇宙へいくことに成功した企業の技術者がその大学で講演したときに話を聞き、これからの宇宙は商業化に向かっていくことを実感しました。将来そのような市場があることを前提として考えたときに、自分は、沢山いる技術者としてではなく経営と資本が必要な"事業"の領域でやっていきたいと思いました。
留学後は経営コンサルティング会社に就職し、その頃に丁度、Google Lunar XPRIZEへ参加しないかという話がありました。とても大きなプロジェクトであり、且つ、成功するかどうかもわからないものではありましたが、一歩を踏み出してみようと活動を始めました。その時はベンチャーやスタートアップを起業する意識はなく、この活動を行うにあたって母体となる公的なフレームが必要であったため、当時勤めていたコンサルティング会社と二足の草鞋になりましたが、会社を作ったことが現在のispace設立のきっかけになります。

ispaceは、非常にダイナミックなビジネス展開をなさっており、資金も莫大だと思います。一方で、日本では、米国に比べると、スタートアップ企業の資金調達環境の課題などが聞かれますが、創業時に課題はありましたか?

創業当時はあらゆる課題があり、特に資金をどう集めるかは大きな課題でした。当時日本には、まだまだベンチャーやスタートアップ企業へ投資する文化が根付いていなかったこともあり、加えて宇宙事業開発には時間もコストもかかるため、資金調達は(創業当時のみならず)どの場面においてもチャレンジです。
宇宙事業をすすめるにあたり、自分の考え方としては、どう人を集めるかも鍵だと思っていました。宇宙分野に携わりたい技術者はたくさんいるので、チームとしての技術力をどうアピールするかだとも思っていました。事業の方向性としてスポンサーシップでの資金集めを考えていたのですが、資金を集められるだけの事業計画がなかったので、スポンサー獲得は難しく、決定権がわかりやすい家族経営などの大企業を選んでスポンサーになって欲しいと100通くらい手紙を送ったりもしました。お断りを含めて10通くらいしか戻ってきませんでしたが、結果的に2-3人の方と実際にお会いして契約を獲得できました(のちにパートナー企業となった会社からはこの時の手紙がきっかけだったと、後から明かされて知りました)。
そうこうするうちに、エンジェル投資家との出会いがあり大きな金額をご支援いただき、またその直後にはベンチャー企業への投資を主にした投資家とも出会い、そのことがきっかけで、のちのシリーズA (103.5億円)調達につながりました。

ミッション1で月面に着陸ができなかった原因については、データ解析やソフトウェアのエラー、プログラムの誤作動などが失敗要因として報道されていましたが、宇宙ビジネスにとって、デジタルやITで最も重要なこと、痛感したことなどあれば、率直に教えていただけますか?

ミッション1でランダーが軟着陸できなかったのは、ランダーの高度測定に異常が生じたことが理由です。実際の月面高約5kmに対して、ランダー自身が自己の推定高度をゼロ(月面着陸)として判断し、その後もランダーは低速での降下運用を続けたものの、月面着陸の確認に至らず、推進系の燃料が尽きた時点でランダーの姿勢制御を含む動力降下制御が止まり、ランダーは月面に自由落下したと考えています。着陸地点をクレーターの中(底)に予定したことでクレーターを通過した際に、クレーター淵(上辺)と下辺となる中(底)の段差を大きな値のエラーとして高度測定を誤認識したことが着陸確認までに至らなかった原因になります。この誤りが生じた背景の1つとしては、設計レビューを完了した後、着陸地点の変更を行っており、この変更による影響を考慮に入れる等、ミッションの成功に向けて必要と考えられる可能な限り全ての検証を行っておりましたが、最終的に航行ルート上で想定される月面上の環境が当社のソフトウェアへ及ぼす影響の範囲を適切に認識し、必要十分に設計へ織り込むことができなかったことが考えられます。着陸前に多くのシミュレーションを行いましたが、この変更によって生じる問題を発見するまでの十分な検証には至りませんでした。
顧客の皆様、パートナー・株主の皆様、そして世界中から応援頂いた多くの皆様等、全てのステークホルダーの方々の期待に十分に応えることができなかったことを、私たちとしても強く残念に感じました。 宇宙ビジネス全般に言えることかもしれませんが、地上での検証を重ねても、実際に宇宙空間において検証できる機会は少なく不確実性が伴うものだと思います。ミッション1の成果から得られた知見やデータは貴重であり、特定された課題と真摯に向き合い、改善に向けてあらゆる努力を惜しまない覚悟で後続するミッション2、ミッション3に向けた取り組みを進めています。

先日公開された小型月面探査車(マイクロローバー)の最終デザインについて、特徴を教えてください。

ミッション2に向けて、欧州子会社であるispace Europeが開発を進めているマイクロローバーは、高さ26 cm、幅31.5 cm、全長54 cm、重さ約5 kgとなり、ランダーの上部にあるペイロードベイに格納され、月面着陸後に展開機構を用いて月面への着地と走行のための展開を行う計画です。軽量かつロケットの打ち上げ等の振動に耐える頑丈性を実現するために、躯体にはCFRP(炭素繊維複合材料)が採用されています。ローバーにはHDカメラが搭載され、月面上での撮影が可能です。月の特殊なレゴリス*環境の上でも安定した走行ができるように、車輪の形状が工夫されています。また、HAKUTO-Rのコーポレートパートナー企業であるEpiroc AB社が開発するスコップも搭載しており、スコップを使用して月のレゴリスを採取し、ローバーに搭載したカメラで採取物の撮影を行う計画です。

最後に、2024年の計画、意気込みなど、教えてください。

現段階における最速での計画として2024年冬にミッション2の打ち上げを予定しており、その準備を着実に進めています。私たちの努力の積み重ねが、長期的な月面開発、そしてシスルナ**経済圏の構築に向けた前向きな一歩に繋がると確信しています。

レゴリス*
レゴリスとは、岩石の表面にみられる堆積層の総称。惑星科学では一般的に流星物質の衝突によって砕け散った細粒物を指してレゴリスとしている。
シスルナ**
地球と月のあいだの空間における経済圏

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