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ここまで進んでいるIOWN構想~光通信で地球上のすべての人やものをつなげる~

2024年1月29日
話し手
  • 日本電信電話株式会社
  • 研究開発担当役員 IOWN総合イノベーションセンタ長
  • 塚野 英博

NTTグループは、2040年度までにカーボンニュートラル(脱炭素)を実現する目標を掲げている。その鍵を握るのが、自社が持つ最先端の光技術を活用した次世代情報通信基盤構想「IOWN(Innovative Optical & Wireless Network)」だ。IOWN構想では、光技術によって従来のインフラの限界を超えた高速大容量通信や膨大な計算リソースなどを提供するとともに、グループ全体の温暖化ガス排出量の45%を削減することを目標にしている。今回は、2030年の導入を目指してIOWNの事業化に取り組む、IOWN総合イノベーションセンタ センタ長の塚野 英博(つかの ひでひろ)氏に、IOWN事業化の現状と将来像などについて伺った。

日本電信電話株式会社 研究開発担当役員 IOWN総合イノベーションセンタ長
日本電信電話株式会社
研究開発担当役員 IOWN総合イノベーションセンタ長
塚野 英博

幅広い技術分野を連携させながらネットワークインフラの研究開発を加速

──2030年のIOWNの事業化に向けて、IOWN総合イノベーションセンタとしてはどのような役割を担っていくのでしょうか。

塚野氏:インフラとしてのIOWNは、4つのレイヤでとらえています。土台となる1つめ目のレイヤにはNTTイノベーティブデバイスが開発した光電融合デバイスという戦略部品があります。このデバイスを使用し、2つ目のレイヤでは複数のベンダーが供給するソフトウェアやハードウェアから構成された、次世代のコンピューティング基盤「データセントリック・インフラストラクチャ(DCI)」を実現します。これによりデータセンターのインフラ等が構成されます。3つ目のレイヤはネットワークです。データセンター間や、データセンターとお客様の間はAPN(All-Photonics Network)によって高速・大容量・低遅延で接続されます。また、DCIも活用しながら、ドコモが中心となってさまざまなベンダーの機器やシステムが相互連携しながら提供される、「OREX」と呼ばれる無線アクセスネットワーク(OpenRAN)のサービスなどが提供されます。その上に4つ目のレイヤとして多拠点に遍在するデータを効率的かつセキュアに扱うことを可能とするIOWN技術群を提供するソリューションサービスのレイヤがあります。各レイヤのDCIやAPN、IOWN技術群を組み合わせて新たな価値を提供し、ビジネス課題や社会課題の解決に寄与したいと考えています。

IOWN総合イノベーションセンタでは、最下層のデバイスからネットワーク、ソフトウェアのそれぞれに対して強みを持つ3つのセンタと、これらの要素を組み合わせてソリューションサービスの市場投入を目指したPoCを行うセンタで構成されており、幅広い技術分野を連携させながら研究開発を加速し、事業化に結び付ける役割を担っています。

(図1)IOWN構想の機能構成イメージ(出典:NTTのWebページより引用)
(図1)IOWN構想の機能構成イメージ
(出典:NTTのWebページより引用)

──そのIOWN総合イノベーションセンタのセンタ長として、なぜ富士通出身の塚野さんに白羽の矢が立てられたのでしょうか。

塚野氏:私の経歴を簡単に紹介させていただくと、1981年に富士通入社後、購買本部に配属されました。購買本部では26年間、主に半導体の調達に関わっていたのですが、そこでは海外の巨大半導体メーカーと対等に交渉を進めることが求められました。一方で、当時は全社の集中購買の仕組みを作り始めていたので、社内においても、より事業やビジネスに近いところでいろいろな話をさせてもらうことができました。その後、全社の経費削減活動に関わることになり、経営戦略室長を経てCFOに就任し、最後は代表取締役で副社長から副会長となって2020年3月に退任しています。NTTから新規事業を手伝って欲しいと誘われたのはその2ヵ月後で、まずNTTアドバンステクノロジの顧問として9ヵ月お世話になり、2021年にIOWN総合イノベーションセンタが作られた時にセンタ長として就任しました。

そんな私になぜ声がかかったのかというと、国内外で33万から34万人いるNTTグループの人材の中で、NTTイノベーティブデバイスの人たちを除けば、実は半導体や電子部品に直接関わっている人はほとんどいないと思います。一方でIOWN構想を実現する上では、4つレイヤの基礎となる光電融合デバイスをNTTが自ら作る必要があります。そこを外部のデバイスに頼ってしまうと、さまざまな制約が生じてしまいます。

そのため、NTTとしてはまずは戦略部品となる光電融合デバイスをきっちりと押さえてその先のロジックデバイスを見据え、それらのデバイスからなるハードウェアやインフラを作り上げていく。その上にネットワークアプリを乗せてソリューションサービスを展開していくために、長く半導体事業に関わってきた私をセンタ長に据えたわけです。

光通信の活用はロングホールから半導体間の通信へ

──IOWN構想を進める背景となったNTTの課題は、どういうところにあるのでしょうか。

塚野氏:今のNTTの課題の一つは、人口減少によって国内の従量課金といった通信市場が徐々に縮小していることですが、その分、ソリューションサービスのデータビジネスが成長しています。すなわち、従来のレガシービジネスが少しずつ細っていくのに対して、ソリューションサービスをいろいろな領域に広げていきながら、グローバル市場にも進出したいという考えがあります。それらを進める上で、まずはインフラを整備する必要があるのです。これまでの光通信は、どちらかというと 100kmを超える都市間や国間通信網となるロングホール系に力を入れてきたのですが、これからはコンピューティングの世界にも光通信が入っていきます。

そこでは、まずデータセンター内のボード間を光でつなぎ、次はボード上の半導体パッケージ間、その先は半導体パッケージの中も光でつなぐようになっていきます。そうやって、半導体に光電融合デバイスが接続されるようになると、今度はそのロジックデバイスを採用しているハードウェアメーカーが光電融合デバイスを使うようになります。そうなれば、その上にある通信領域のアプリケーションや、それらのハードウェアをベースに構築されるソリューションサービスにまで光電融合デバイスが入っていくでしょう。

IOWN構想が最終的に目指しているのは、地球上に光のメッシュを張って、デジタルツインコンピューティングの世界を具現化することです。とはいえ、そこに至る前でも光でつなぐことによるメリットを、いろいろな形で万人が享受できるのが理想的です。その一番のポイントといえるのが、カーボンニュートラルにつながる電力削減なのです。

──通信の光化は、私たちの生活をさまざまな面からサポートしてくれるのですね。

塚野氏:2点間のデータ伝送(end to end)を考えた場合、現在のTCP/IPというプロトコルは基本的にデータの到達時間はベストエフォートであり、ある時間内で絶対にデータが届きますということはなんら保証がありません。それに対して、光は確実に2点間を一定のスピードで伝わっていくので、伝送速度や遅延時間が保証されるのです。

──今後は光通信を活用してどのようなアプリケーションが、広がっていくのでしょうか。

塚野氏:光通信に関しては、現状はデータセンターに矛先を向けていますが、今後は自動車が試金石になると考えています。今は自動車のインパネの裏にあるロジックLSIから先のセンサーが、全部メタルでつながっているのですが、カッパーケーブルを使っているので結構な重量があります。それを光ケーブルに変えると、それだけで大きな重量削減になり、EVの航続距離が伸びるし、ガソリン自動車にしても燃費効率が上がるので、この分野は特に重視しています。

2024年は大阪・関西万博で公開するIOWN 2.0の準備の年に

──ネットワーク技術の未来は、どのようになっていくと見ていますか。

塚野氏:私が富士通にいた頃に感じていたのは、そのうち機械ではなくて人間の体の中にチップが入っていくのだろうなということです。例えば、ただ手をかざすだけで決済が終わるとか、あるいは何もしなくても勝手に決済が終わっているような世界になるだろうなと思っています。

一方で、デバイスはデバイスで進化し、コンピューティングのインフラもどんどん進化します。これはどこまでやったら完結するというわけではないのですが、地球上のありとあらゆる場所で通信ができるようになることがある意味ゴールであり、少なくとも無人島にいても孤立することがなくなるのが1つの完結した姿だと思っています。

今の世界人口は80億人弱で、2030年に85億人、2050年には95億人になると推定されていますが、赤ん坊のゆりかごにも何らかの電子機器が搭載されるかもしれません。それらが光電融合デバイスで構成されるなら、基本的には95億人の人口をかけた数のデバイスが必要になります。そうなってくると、光の通信機器の単価も下げられるし、さまざまなものが半導体で構成されるようになるので、新たな産業革命を進めていくことが重要になってくるでしょう。

──そのためには、さまざまなパートナーさんとの連携もより重要になってきそうですね。

塚野氏:そうですね。すでに個々の領域では、例えばサーバを作っている人達と一緒に光電融合デバイスのインターフェースに関する議論の場で、サーバメーカーとしてはこういうことを考えています、NTTではこういうことを考えていますと意見を出し合っています。その上で、お互い何ができるかを話し合いましょうといった連携も積極的に進めています。

──2024年には、IOWN構想はどの段階まで進むのでしょうか。

塚野氏:IOWN構想には1.0、2.0、3.0という進化のロードマップがあります。2023年3月にはIOWN 1.0のサービス提供を開始しましたが、現在は2025年の大阪・関西万博の開催に合わせて提供するIOWN 2.0の準備を進めているところです。したがって、少なくても2024年の末までには万博で披露するIOWNの技術は完成させておく必要があります。

その一番の売りが、大容量のスイッチングデバイスになります。19インチラックに装着するブレードサイズで提供できる、50テラ超のスイッチングデバイスを公開したいと考えているのでご期待ください。

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