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ロボット産業の集積化を支える福島ロボットテストフィールドとは

2025年1月27日
話し手
  • 福島ロボットテストフィールド
  • 副所長
  • 若井 洋

福島県南相馬市にある「福島ロボットテストフィールド(RTF)」は、陸・海・空で使用することを想定したフィールドロボットの一大開発実証拠点だ。南相馬市復興工業団地内の東西約1,000m、南北約500m、50ヘクタールの広大な敷地内には、「無人航空機エリア」、「インフラ点検・災害対応エリア」、「水中・水上ロボットエリア」、「開発基盤エリア」が整備されている。

福島ロボットテストフィールドの施設全景
福島ロボットテストフィールドの施設全景

この施設は、東日本大震災および福島第一原発の事故によって失われた浜通り地域産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトである「福島イノベーション・コースト構想」に基づき、2020年3月末に開所した。

福島イノベーション・コースト構想とは、浜通りの産業を復興させるため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトだ。廃炉、ロボット・ドローン、農林水産、エネルギー、環境・リサイクル、航空宇宙の各分野におけるプロジェクトを進めるともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大に取り組んでいる。

現在では、福島イノベーション・コースト構想全体で、浜通り地域の15市町村に400社以上が新たに進出しており、ロボット産業の集積化が進んでいる。この産業振興に貢献しているのが、福島ロボットテストフィールドだ。そこで、副所長である若井 洋(わかい ひろし)氏に同所の取り組みについて聞いた。

福島ロボットテストフィールド 副所長 若井 洋氏
福島ロボットテストフィールド 副所長 若井 洋氏

──福島ロボットテストフィールドの開設の経緯を教えてください。

若井氏:2011年の東日本大震災によって、福島県は、福島第一原発の事故、震災・津波によって、浜通りの太平洋岸産業が大きなダメージを受けました。避難区域になってしまったということもあり、産業そのものが停止するような非常に大きなダメージです。そこから、産業・経済を復興させるために、新たな次世代産業をこの地域で興していこうということで、ベンチャーを含め、企業や大学の研究開発、事業化を後押しするため、ロボット、ドローンなどの次世代産業の実験場、実証フィールドを提供する場所として開設されました。国の予算で作られた施設ですが、資産としては福島県の施設で、福島イノベーション・コースト構想推進機構が施設の維持運営、管理を委託されています。

──この施設の利用状況を教えてください。

若井氏:施設にお越しいただいて、フィールドの設備分析や計測設備などを利用いただくケースがメインになっています。施設の半日利用を1件と数えると、昨年度は5100件の利用があり、延べ12万人の方が利用しています。
また、貸し研究室も20室提供し、常駐して研究する事業者や大学研究機関もあり、現在、18団体が利用しています。

──この施設の特徴は、何でしょうか?

若井氏:設立の段階からロボット、ドローン、空飛ぶ車の社会実装を想定し、研究開発から実証フィールドまで、ワンストップで提供している点が大きな特徴になっています。
研究室のほか、電波室、3Dプリンタなどの加工機、振動試験機のような設備もあり、屋外には飛行環境や市街地を模した実証フィールド、トンネル、橋梁、大規模な災害現場を模したフィールドもあります。このように、開発から実証環境までトータルで提供しています。

電波暗室
電波暗室

また、研究開発をサポートするため、福島県ハイテクプラザ南相馬技術支援センターのスタッフや技術者が同居しており、技術サポートをしっかり受けられるところも大きな特徴だと思います。
例えば、ベンチャー企業やスタートアップの中には、実験設備や試験装置を使い慣れていない方もたくさんいらっしゃいます。そのため、装置をどう使ったら良いのか、どのようにデータを取ったら良いのかといった技術サポートを充実させているところは、他にはない福島ロボットテストフィールドの特徴だと思います。

さらに、南相馬市と各企業が連携協定を結んだり、この施設に居を構えれば県や市の補助金を利用できるところも大きな魅力になっています。

──ドローンの開発が、施設利用の中心的なものになるのでしょうか?

若井氏:2020年の3月に開所して、現在5年目に入りましたが、延べ65%がドローンの開発や実証での利用になります。次に多いのが陸上用ロボットで、その次が水中用ドローンと、空飛ぶ車です。利用比率では、圧倒的にドローンが多くなっています。それというのも、ドローンは航空法という厳格な法律のもとで運用されていますので、実験場所がかなり限られています。この福島ロボットテストフィールドは、敷地が広々としているだけではなく、施設の一部が航空法適用外となっています。そのため、開発段階の利用者にとっては利用方法が非常に簡素で、緩衝ネット付飛行場内であれば航空法のための飛行申請をしなくても利用ができ、さらに設備が充実していることがドローンの利用が圧倒的に多くなっている理由だと思います。

──インフラ点検向けのロボットの研究もされていると聞いていますが。

若井氏:インフラ点検向けでは、ドローンを利用したインフラ点検が一番多いと思います。プラント整備では、メンテナンスのために各種のメーターを読み込みますが、ここではトンネルのひび割れに似た状態が再現されているので、それらをドローンを利用して視察し、メンテナンスが必要かどうか判断するといった利用が多くなっています。
その次に多いのは、地上型ロボットです。地上を走行して利用するというインフラ点検用のロボットもあります。

──研究開発においては、研究者同士の横のつながりも重要だと思いますが、何か工夫している点はありますか?

若井氏:我々には、活動分野のひとつに、研究開発・実証環境の提供があり、これがメインとなります。また、2つ目に事業者同士の連携を図ることや、地域基盤の構築があります。目的は、産業復興ですので、福島県の浜通りの地元サプライチェーンと、福島へ進出してくださったロボットやドローン関連企業、空飛ぶ車に携わる企業を結びつけ、取引につなげていくというのも我々の重要なミッションです。

そのため、南相馬市では、ロボット産業協議会や、県のロボット産業推進協議会といった各種事業団体、協議会の団体と、我々の施設への進出企業との交流の場も提供しています。例えば、ロボテスフェスタという、毎年秋に開催しているフェスタがありますが、展示会的な位置づけで交流を図ったり、カンファレンスルームを使ったセミナーを開催するなど、交流の場所を提供しています。

降雨・霧雨試験装置
降雨・霧雨試験装置

──福島ロボットテストフィールドのこれまでの成果としては、どういったものがあるのでしょうか?

若井氏:事業者向けでは、スタートアップの方がロボットやドローンの基礎的な研究段階を経て、実際に事業化したり、サービス現場で活用されるようになるなど、成果は多々あります。
非常に大型の重機のような機能と、精密な操作性の両方を兼ね備えたロボットを開発している事業者も、今年から製造現場やメンテンナンス現場でロボットが活用されるところまで実現しました。
また、ドローンであれば国交省の定める型式認証の試験環境を活用して、型式認証取得につなげています。

──こちらの施設では、人材育成も行われていますが、具体的にどういった取り組みをされていますか?

若井氏:人材育成では、地域の子供たちに対してロボットのプログラミング教育を行っています。年間400~500人、累計では約2000人の地域の小中学校生を対象に、福島県で開発された教育用ロボットを使って、実際にプログラミングを行いロボットを動かすという教育を行っています。非常に好評をいただいており、毎年新入生を迎えて新たに教育を行ったり、学校側のロボット購入にもつながっています。
また、我々が講師となって、地域の小中学校に出向き、ドローンが飛行するための原理を分かりやすく講義する出張授業も、年間相当数実施しています。

──利用の65%はドローンということですが、今後注力する領域はあるのでしょうか?

若井氏:この2年ほどは、宇宙関係のスタートアップの進出が非常に多くなっています。例えば、インターステラテクノロジズであったり、AstroXなど、特に打ち上げ関連の民間事業者の進出が相次いでいます。

──宇宙関係の事業者の進出が増えた理由は何でしょうか?

若井氏:ひとつは、市が工業団地やインキュベーションセンターに誘致をしているということがあります。加えて、ロボットテストフィールドが非常に大規模で、厳しい振動や熱の環境試験などを行う設備が充実しており、しかも低価格で利用しやすいということも大きな理由だと思っています。

振動試験機
振動試験機

──福島県は水素の研究など、新しいテクノロジーに対して積極的だと思いますが、実際にそういった面を感じますか?

若井氏:街中に水素自動車のステーションがあるなど、身近なところに新しい再生可能エネルギーやグリーンエネルギーの存在を感じられます。そういった次世代の産業やエネルギーが比較的身近な場所であると思います。
ロボットテストフィールドや南相馬市を中心に、浜通りには80社を超えるロボット、ロケット、空飛ぶクルマといった先進的なロジスティクスに関連する事業者が、研究所や営業所を構えています。そういった新しいことにチャレンジするプレイヤーの方が多く集まっているということも、日常的に実感できると思います。

──福島第一原発の廃炉もあり、廃炉産業も進んでいるのでしょうか?

若井氏:福島第一原発の廃炉にあたっては、さまざまな技術開発がなされています。技術開発を行いながら廃炉を進めていくというのは、非常に困難な道のりであり、技術的に大きなチャレンジをしながら進めているのが現状です。その中から、宇宙であったり、ロボティクスにスピンオフする技術も多々あります。例えば、廃炉というのは、人間が入り込めない環境でロボットやセンサーが活動するということですので、高放射線下で耐えられるようなコンピューターのチップであったり、CCDカメラのようなものが必要になります。
それらは宇宙開発にも直接影響していて、人工衛星といった宇宙で使用されているものにおいては、人間の代わりにロボティクスが活躍するわけです。宇宙では、太陽からの直接的な放射線に耐えながら、安定的に性能を発揮することが求められます。そういった点で、廃炉の技術というのは、そのままロボットやドローン、宇宙開発にもつながる親和性の高い技術だと思います。

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