CDPの先に見据えるのは「マーケティングの全自動化」。 AIエージェントが変えるビジネスの根幹
- Treasure Data
- CEO
- 太田一樹

米Treasure Data CEO(最高経営責任者)兼共同創業者の太田一樹氏
シリコンバレーで、日本人起業家3人が立ち上げたデータテクノロジー企業であるTreasure Data。2011年に米国で創業し、翌2012年には東京に日本法人を設立。Treasure Dataは、日本を事業開発および技術開発の重要拠点として位置づけながら、グローバルで企業のデジタル変革を支援してきた。同社が提供するのは、AIネイティブなマーケティングプラットフォーム「Treasure Data AI Marketing Cloud」である。信頼性の高いデータ基盤に、セキュアなAIと高度な施策実行機能を統合し、企業の意思決定と顧客体験を進化させている。現在では、世界の名だたるグローバル企業を中心に、400社以上に導入される企業へと成長した。創業から一貫して描いてきたビジョンと、その現状について、創業者であり、現CEOの太田一樹(おおた かずき)氏にお話を伺った。

──トレジャーデータについて、教えてください
太田氏:トレジャーデータは、今から15年前の2011年、日本人エンジニアが米国シリコンバレーで創業した企業です。創業当時から、我々は、企業の中に蓄積されているデータが十分に活用されていない状況に課題意識を持ち、「データを誰もが『価値』に変えられる世界をつくる」ことを目指してきました。2012年には東京に日本法人を設立し、日本を事業開発および技術開発の重要拠点として位置づけています。事業は次第にマーケティングや顧客データ活用へと広がり、現在ではCustomer Data Platform(CDP:顧客データを一元管理して分析する)のグローバルリーダーとして、「Fortune 500」や「Global 2000」を含む世界400社以上に導入されています。米国での活躍という意味では、大谷選手とまでは言いませんが、野茂英雄氏のように、日本人がメジャーで道を切り拓き始めた、あの頃の熱量には並べたのではないかと思っています。
そして、近年は、信頼性の高いデータ基盤にAIをネイティブに統合した「Treasure Data AI Marketing Cloud」を提供し、リアルタイムな意思決定と高度な顧客体験を通じて、企業の持続的な成長とデジタル変革を支援しています。
──昨年末、AIネイティブ企業へのシフトという方針を発表されましたが、その背景は?
太田氏:トレジャーデータはここ数年、「SaaS買いすぎ問題」という課題に取り組んでいます。マーケティングテクノロジーと呼ばれるSaaSの会社は、世界に1万5,000社以上あります。10年前の時点では、このような企業は、この数の10分の1ぐらいでした。本当にいろいろなソリューションがSaaSとして提供され、2020年頃からは、デジタルトランスフォーメーションという名のもとに、多くの企業がSaaS企業からソフトウェアを導入しました。その結果、導入したソリューションを使い切れないという状況が起こりました。ここ2年ぐらい、我々のお客様から、SaaSによる顧客データがいろいろな場所に貯まっているが、これらのデータをトレジャーデータのCDPに統合できないかという要望をいただくようになりました。
そこで、昨年の6月にAI-Firstプロダクトの第一弾であるマーケティングオートメーションのプロダクト「Engage Studio」を発表しました。この製品の目的は、CDPとマーケティングオートメーションをワンパッケージで提供することで、データを動かさずに、そのままお客さまにダイレクトにEメール、モバイルアプリなど、いろいろなチャンネルでコミュニケーションすることができるようにすることです。今までは、例えば4時間ぐらいかかっていたEメールを作る作業を、AIを使うことにより15分で終わらせる、そのようなコンセプトを持った製品です。
──AIによる機能強化も注目されていますが、そもそも競合がひしめくCDP市場において、貴社が圧倒的な優位性を保ち続けている要因は何でしょうか?
太田氏:自分たちの一番得意としている領域には、世界中で競合が300社くらいあります。その中でCDPとして差別化していくために、毎月600以上の変更をデプロイしています。金曜日から日曜日はデプロイしないので、1日に30回ぐらいプロダクト改善を行っています。この絶え間ない改善こそが、変化の激しい市場において、お客様に常に最新かつ最適なソリューションを提供できる理由です。
──AI関連では、どのようなアップデートを行ったのでしょうか?
太田氏:米国のスタートアップ企業のAnthropicが提供する大規模言語モデルを用いた対話型AI「Claude」(クロード)を、基盤モデルとしてサポートするようにしました。「Claude」は、非常にエンタープライズで使いやすいモデルだと考えています。ただ、いろいろな企業の人に聞くと、「このAIだけがセキュリティ上許可されている」「この生成AIを使わないといけない」という具合に、使える生成AIが決められている企業もあります。そこで、OpenAIとのパートナーシップを確立しました。今後は、GoogleのGeminiも順次トレジャーデータの基盤上で提供していく予定になっています。
また、トレジャーデータの新しいドキュメントを提供しています。このドキュメントは、MCP(Model Context Protocol)というAIがデータにアクセスするためのプロトコルによって、AIがドキュメントを読むことができるものにしています。
これによって、例えばトレジャーデータでエラーが出た場合、これをAIのコーディングエージェントに渡すと、自動的にドキュメントを検索して直してくれるツールを開発しました。AI-Native Coding CLIツール「tdx」というツールです。
──AIというテクノロジーをどのように捉え、プロダクトに落とし込んでいるのですか?
太田氏:AI製品の作り方に対して明確な哲学を持っています。それは、巨大なAIにすべてを任せるのではなく、「スモール・エージェント(Small Agent)」を組み合わせていくという考え方です。
今のLLM(大規模言語モデル)は、あまりに巨大なタスクや複雑なコンテキストを一度に渡すと、判断を迷って精度が落ちてしまいます。そこで我々は、特定のタスクに特化した「小さなエージェント」を数多く作っています。限定的なタスクであれば、期待通りの成果を出せても、汎用的なタスクを投げると成功率は下がりますが、特化させれば精度は極限まで高められます。
この発想をもとに、我々は昨年12月に「マーケティング・スーパー・エージェント(Marketing Super Agent)」を提供開始しました。個別の業務を確実にこなすスモール・エージェントを多数配置し、その上に「オーケストレーター(Orchestrator)」と呼ばれる司令塔のエージェントを置く。オーケストレーターが、どの順番でどのエージェントを使えばいいかのプランを立て、実行を制御するシステムです。
さらに重要なのが「Human-in-the-Loop(HITL)」、つまり人間によるチェックです。プランの進行状況を人間が確認できるステップを組み込むことで、タスクの達成確率をさらに引き上げます。
「AIに丸投げすれば何でもやってくれる」という夢を語るのではなく、現在99.99%の確率で成功するタスクを、来年にはもっと高めていく。より複雑なビジネスプロセスを、どこよりも高確率で完遂できるシステムを作っていく。そういった戦略をもってAIを提供しています。
──今後、AI関連で提供する予定のプロダクトはありますか?
太田氏:CDPを導入すると、顧客データがCDPに集まります。米国では、DWH(データウェアハウス)に全部集約したいというお客さんもいらっしゃいます。ただ、これまではマーケティングオートメーションの作業を行うために、これらのデータをコピーする必要がありました。そのため、PIIデータ(Personally Identifiable Information:個人を特定できる情報)も、さまざまな場所に存在することになります。そこで、新たに「Composableモード」を追加しました。これは、DWHにすべてのPIIデータを残しながら、トレジャーデータの全機能を使えるようにするモードになっています。SnowflakeのComposableモードから提供を始め、Databricks 、BigQueryにも順次対応していきます。
──今後はマーケティング以外の領域に進出することも考えていますか?
太田氏:考えています。これからのSaaS企業は、単一の機能を提供するだけではなく、少なくとも5〜7個の領域をカバーする「マルチプロダクト」を展開できなければ、生き残ることは難しいと考えています。そのため社内では、第2弾、第3弾と、5本目までの「次なる矢」を放つ準備を進めており、今後さらに事業展開を加速させていく予定です。
1つは「ライセンス・コンソリデーション(ライセンスの集約)」への対応です。お客様がバラバラに契約している複数のソフトウェアを、私たちのプラットフォームへ統合していくことを目指しています。具体的には、MCPを活用してAIエージェントを外部へ展開し、様々な領域のSaaSとして提供していきたいと思います。例えば、バックオフィス系です。会計データ、在庫データ、人事データ、カスタマーデータなど、これらのデータはどんなビジネスにおいても核になるデータです。我々としては、顧客データを軸にこうした周辺領域へとシェアを伸ばしていきたいと思っています。
HR領域から会計へと拡大したWorkday(ワークデイ)のように、群雄割拠の状態からどんどん統合・集約のフェーズへと向かっています。
トレジャーデータが目指すのは、マーケティングに閉じたツールではなく、コンタクトセンターや対面営業など、あらゆる顧客接点で活用できるソリューションへの進化です。顧客データは、マーケティング部門だけのものではありません。営業活動はもちろん、GDPRに代表されるコンプライアンス対応まで、その用途は多岐に渡ります。これらをカバーするソリューションにしていくことは必須課題だと思っています。
実際、2018年頃にわれわれがシェアを伸ばした背景には、GDPRの施行がありました。世界的に、「顧客データをきちんと同意のもとに管理すべき」という機運が高まった時期です。また、日本でも2026年10月に「カスハラ(カスタマーハラスメント)対策」に関する法整備が進み、企業はより厳格な対応が求められるようになります。顧客データを「攻め」のマーケティングや営業に活用するだけでなく、こうした「守り」の規制遵守やガバナンスにも対応していく。この両輪を回すことこそが、私たちが成長し続けてきた理由であり、これからの企業経営における不可欠な基盤になると思います。
そういった「波」も捕まえながらシェアを伸ばしていきたいと思っています。
──最後に、AIにより、マーケティング業界はどのように変わるとお考えですか?
太田氏:そう遠くはない未来に、企業のマーケティング業務は、最終的にはAIが全てを担うことになると考えてます。その鍵を握るのが、自律的にタスクを処理する「AIエージェント」の存在です。顧客分析から、一人ひとりに最適化されたマーケティング施策の提案、実行、そして、その結果に基づく改善のフィードバックに至るまで、一連のマーケティングサイクルが自動化される世界がやってきます。この先、労働力不足という課題が根本的に解決することはないでしょう。だからこそ、企業の根幹となるマーケティング活動を、高い生産性と精度で持続させていくためには、AIエージェントによる自動化が不可欠です。AIは単なる効率化のツールにとどまらず、ビジネスの未来を劇的に、不可逆的に変えていく原動力になると確信しています。
ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。
最新の特集
2030年の社会を担うテクノロジー
