• HOME
  • 未来を語る
  • 太陽光発電で余った電気は水素で貯める 再生可能エネルギー利用の鍵となる水素エネルギー

太陽光発電で余った電気は水素で貯める 再生可能エネルギー利用の鍵となる水素エネルギー

2026年2月24日
話し手
  • 東京大学 先端科学技術研究センター
  • 水素エネルギー分野 教授
  • 河野龍興
(写真)東京大学 先端科学技術研究センター 水素エネルギー分野 教授 河野龍興氏
(写真)東京大学 先端科学技術研究センター 水素エネルギー分野 教授 河野龍興氏

「未来のエネルギー」と言われている水素だが、そこには日本が50年前から取り組んできた、数々の実装技術が生かされている。再生可能エネルギー(再エネ)の急増によって、太陽光発電にもさまざまな課題解決が求められている今、水素がエネルギー源として果たす役割や普及の条件について、東京大学 先端科学技術研究センター 水素エネルギー分野 教授の河野龍興(こうの たつおき)氏に伺った。

日本が積み上げてきた水素活用のノウハウ

──水素の活用はいつ頃から始まり、現状ではどこまで進んでいるのでしょうか。

河野氏: 実は、水素の活用には長い歴史があるんです。1973年のオイルショックの時代には、石油の代替エネルギーとして水素が提唱されました。日本でも当時は水素エネルギーの研究会があり、いまは水素エネルギー協会として続いていて、実は50年かけて技術開発と実用化が進んできたという実情があります。1980年代には欧州を中心に、水素を作って国民生活や経済活動に必要なエネルギーを安定的かつ合理的な価格で持続的に確保する、エネルギーセキュリティ(エネルギー安全保障)のプロジェクトがありました。日本も1993年から1998年まで、当時の通商産業省がニューサンシャイン計画の一環として、「WE-NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術)」を実施しています。

その後も、FCV(燃料電池自動車)や水素定置用燃料電池の開発を続け、2014年には燃料電池が発売されました。また、30年前には海外の再エネから水素を作り、液体水素にしてタンカーで日本へ運ぶことを考えていました。今では、水素バスやタンカー、FCVなど、当時思い描いたものがほとんど実用化してきています。水素の活用には、スタートから30年経って、ようやく社会実装が進んできたという歴史があります。

──水素を活用したエネルギーは、すでに私たちの身近にもあるのですね。

河野氏: すでに実用化されている水素エネルギーは、家電量販店などでも買えるんです。レジの側などにも置かれている「エネループ(eneloop)」と呼ばれる、ニッケル水素電池がそれです。エネループは乾電池サイズの本体の中にアルカリ水が入っていて、充電するとその水を電気分解するのと同じ現象が起きて水素が作られます。その水素を、水素吸蔵合金という特殊な材料に蓄えるんです。電気を使う時は、その水素を消費して発電します。すなわち、作って、溜めて、使うという究極のエネルギーシステムが、エネループの中に入っているんです。

しかも、水素吸蔵合金という材料は、液体水素より高い密度で長時間、安全に水素を溜められます。常温で大気圧でも反応でき、火を近づけても燃えにくく爆発もしにくい。こうした性質からも、ガスより安全にエネルギーとして活用できるんです。

再エネ時代に求められる水素の役割

──水素活用において、最新のトレンドはなんでしょうか。

河野氏: 現在一番注目されているのは、再エネを使って水素を作ることです(図1)。それによって、水素製造時のCO2発生はゼロにできます。もう1つの注目ポイントは、エネルギーセキュリティです。日本はエネルギー自給率が低く、2022年には化石燃料の85%を海外からの輸入に頼っていました。その輸入額は非常に高額で、特にウクライナショック後は30兆円を超えるお金が海外に流れるなどして、日本の貿易赤字の要因にもなっています。ですので、輸入に頼らざるを得ない化石燃料を少しでも減らし、国内でエネルギー資源を作って使える比率を上げる必要があります。同時に、CO2排出量を下げながら安定供給を確保しなければなりません。

(図1)水素の輸入と貯蔵方法(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)
(図1)水素の輸入と貯蔵方法(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)

──太陽電池による発電には、需要と供給の適正なバランスが保てないという問題があります。そうした再エネの課題に、水素はどのように役立てるのでしょうか。

河野氏: 再エネの中で最も発電量が多い太陽光発電は、太陽光を入れ過ぎると停電が起きるという問題があります。なぜなら、太陽光の場合は青天の日でも日中の発電量の変動が大きいからです。こういう電力が投入されると、系統全体が安定化できず、一時的に負荷がかかりすぎて停電が起きるんです。

再エネは世の中に必要だけど、頼り過ぎると系統が不安定になる。その課題を解決するテクノロジーとしては、現在2つの選択肢があります。1つは系統用の蓄電池を置くことで、もう1つは水素を作ることです。蓄電池の場合は充電すると終わりですが、太陽光発電で余った電気を水素に変えれば、さまざまな用途に使えます。そのエネルギーで発電もできるので、電気を水素の形で溜めておくこともできるのです(図2)。

(図2)東京大学 先端科学技術研究センターで導入されている再エネを利用した水素エネルギーシステム(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)
(図2)東京大学 先端科学技術研究センターで導入されている再エネを利用した水素エネルギーシステム(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)

──水素を使った発電とは、具体的にはどのようなものになるのですか。

河野氏: 方法はいろいろあります。例えば、水素と酸素を合わせて電気を作れば、車や定置用の燃料電池が作れます。また、水素を燃やしたエネルギーでタービンを回転させれば発電できます。さらに、水素を効率的に輸送・貯蔵できるアンモニアに変換して、電力を消費する場所まで運んで燃やして発電する方法もあります。

発電以外の用途としては、水素をCO2と反応させてメタンガスにすることで、既存のガスインフラや都市ガスにつなげる考え方があります。また、水素吸蔵合金が水素を放出する際の化学反応を利用して冷熱や温熱を発生させ、冷暖房を行う水素ヒートポンプのような使い方も考えられます。

日本で水素エネルギーの活用を普及させる課題

──水素は他の燃料に比べて、運びやすいとも言われています。

河野氏: 水素はガソリンより安全です。濃度が4%を超えなければ爆発しないのですが、例え漏れても拡散するので基本的には4%を越えるような状況になりにくい。そういう意味で、安全に運べる媒体だと思います。ただ、貯蔵・輸送は昔ながらの方法に集約されます。したがって、選択肢は圧縮、液体水素、水素吸蔵合金、有機ハイドライド、究極はパイプラインくらいしかありません。

結局のところ、水素の運搬にもコストがかかるので、私は作った場所で燃やして発電する地産地消が、最も効率的な活用法だと思っています。例えば、太陽光で発電した電気を建物に供給して、余った分を蓄電池に溜めておく。それでも余る分を水素に変えて、必要なときに燃料電池で電気に戻す。そうすると発電した電力の75%くらいを、その場で消費できるようになります。こうしたシステムはすでに東京の港区など都市部でも実装できていて、昼に水素に変えたエネルギーを、夜は照明で消費するような使い方が実際に動き始めています(図3)。

(図3)東京大学が東京・港区の「BLUE FRONT SHIBAURA」に納入したグリーン水素発電システム:G-HES(Green Hydrogen Energy System)」(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)
(図3)東京大学が東京・港区の「BLUE FRONT SHIBAURA」に納入したグリーン水素発電システム:G-HES(Green Hydrogen Energy System)」(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)

──今後も、こういった水素エネルギーを活用したシステムを日本で普及させていく上での課題は、どこにあるのでしょうか。

河野氏: 課題に関して、大きくは2つあると思っていて、それは初期投資のコスト高と運用に関わる規制です(図4)。コストに関しては、売れていないから高いんです。工業製品は10倍売れるとコストが半分になるので、水素エネルギーシステムも各地で導入が進んでいけば、初期導入に関わるコストは下がります。だから、普及を加速させなければならないのです。

規制の課題に関しては、標準化がまだ十分ではありません。ISO(国際標準化機構)の議論も必要ですし、日本国内でも高圧ガスに関する消防法や建築基準法などを見ながら、海外のように合理化していく必然性があります。さらに、CO2を出さないグリーンエネルギーの価値をどう評価するかという指標が弱い点も課題だと思っているので、今後はそういったことも浸透させていかなければと思っています。

(図4)水素エネルギーシスムを日本で普及させるための課題(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)
(図4)水素エネルギーシスムを日本で普及させるための課題(出典:東京大学 先端科学技術研究センター)

「未来図メディア」メールマガジン登録

5G×IoTの最新情報やイベント・セミナー情報を
いち早くお届けします。

ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。

ページトップへ