人工衛星の活用などによる日本の宇宙ビジネス最前線

2023年12月18日

宇宙産業の市場規模についてはいろいろな見方があるが、PwCコンサルティングが発表した調査結果では、2022年時点においてグローバルで約40兆円と試算されており、今後も大きな成長が予想されている。一方で、日本は海外、特に米国と比較すると市場規模などで後れをとっていると見られている。とはいえ、日本でもこの数年でさまざまな宇宙ベンチャーが立ち上げり、独自の技術とアイデアで宇宙をビジネスに活用している。

長距離伝送に対応したLPWAを人工衛星に搭載

小型衛星開発のスタートアップであるアクセルスペースは、2024年第1四半期に打ち上げ予定の「Pyxis」のミッションの1つとして、ソニーグループが開発したLPWA(Low Power Wide Area)の独自規格「ELTRES」に対応した衛星無線実験装置を搭載すると発表した。「Pyxis」は、2022年4月に発表したアクセルスペースがワンストップで提供する、小型衛星ミッションの新サービス「AxelLiner」の実証衛星初号機となる。

ソニーグループのR&Dセンターでは、地球上のあらゆる場所をセンシングすることによって、環境破壊や自然災害の未然防止に貢献することを目指した「地球みまもりプラットフォーム」の研究を進めている。「地球みまもりプラットフォーム」のカギとなる技術には、変化を捉えるセンシングと変化を理解する予兆分析、変化を伝える超広域センシングネットワークなどがある。

それらの技術を支える「ELTRES」は、データ量は小さいものの確実に遠くまで電波を届けることができる技術で、衛星からも利用可能にすることで、サポートエリアを地球全体に広げられるという。今回は「Pyxis」の積載物として、「ELTRES」に対応した衛星無線実験装置を搭載し、軌道上での実証をアクセルスペースと共同で行う予定だ。

アクセルスペースが提供する小型衛星ミッションのワンストップサービス「AxelLiner」(出典:アクセルスペースのニュースページより引用) イメージ
アクセルスペースが提供する小型衛星ミッションのワンストップサービス「AxelLiner」
(出典:アクセルスペースのニュースページより引用)

宇宙から地球を見守る人工衛星サービス

Synspectiveは、2020年12月15日に打ち上げた自社初の実証衛星「StriX-α」が、2023年10月27日に大気圏に突入しミッションを完了したと発表した。「StriX」は政府が主導した革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」の成果を応用した独自の衛星で、アンテナから電波を地表に向けて照射し、地表からの反射波を捉えることで地表の形状や性質についての画像情報を取得するSAR衛星となっている。

「StriX」は従来の大型SAR衛星と近い性能をもったまま小型・軽量化及び低価格化を実現することで、多数機生産が可能となっている。現状は「StriX-β」「StriX-1」が地球を周回しているが、2024年中に6機体制にして、2026年前後には合計30機の衛星群構築を目指し、世界のどの地域でも数時間以内に衛星が到達して観測できる計画を立てている。

SAR衛星から得られたデータは、地球規模の事象を探索し、適切な対応を促す役割を担う。例えば、社会インフラ管理の領域では、道路や鉄道、エネルギー施設などの異常を検出し、メンテナンスコストや事故リスクの低減に貢献。また、農業の領域では、作物の生育状況や作付面積の把握、植生の分析などに貢献し、農業従事者のコスト削減に寄与する。その他、防災・減災の領域では、洪水や地すべり、火山噴火などの被害状況の迅速な把握や、時系列データに基づく広域の地盤リスク評価などを行う。

宇宙から地球を見守る小型SAR衛星「StriX」の1/4スケールモデル(SPACE WEEK 2023の展示会場で撮影) イメージ
宇宙から地球を見守る小型SAR衛星「StriX」の1/4スケールモデル
(SPACE WEEK 2023の展示会場で撮影)

宇宙活用ビジネスのアイデアコンテストが開催

内閣府は2017年から、宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」を開催しており、2023年の最終選抜会が11月16日に開催された。当日は、日本およびアジア・オセアニア枠の2次選考会を経てファイナリストに選出された日本、オーストラリア、マレーシア、台湾、タイの計14チームがそれぞれプレゼンテーションを行った。

最優秀賞を受賞したのは、日本のチーム「Astromine」が考案した「小惑星に、毎月いける時代を創る」だ。このアイデアは、宇宙資源を活用したい企業向けの、小惑星資源探査のインフラサービスとなっている。「フライバイサイクラー」と呼ばれる、軌道上に構築された特殊な深宇宙(地球の表面から200万キロメートルの距離から始まる宇宙)向けコンステレーション(多数の小型の人工衛星を連携させて一体的に運用する仕組み)を用いることで、毎月1回以上の頻度で宇宙機の小惑星フライバイ(他の天体の近くを通り過ぎる宇宙飛行)を行う。この方法は、月資源探査と比べてより低コストで超小型宇宙機が活用でき、多種多様な宇宙資源のカタログ作成や資源採取、技術実証、人材育成を加速するという。

その他にも、ANAホールディングス賞を受賞した、牛乳石鹸共進社の「コップ一杯の水で爽快な湯あがりを提供する『YUAGARI』」は、宇宙ステーションなど水を使用することが制限された状況で、少量の水で風呂に入ったりシャワーを浴びて頭を洗ったりしたときのような爽快感を提供する。また、横河電機賞を受賞した、無重力空間で使用できる洗濯機を用いて衣類が再利用できる「衣類のエコシステム」など、来るべき宇宙生活を見据えたアイデアなどが発表された。

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