花王が豊橋工場に導入したホワイト物流のための仕組みとは?

2024年3月11日

2024年の大きな話題と言えば、「物流の2024年問題」だ。これは働き方改革関連法に基づき、トラックなどのドライバーの時間外労働の上限が、4月1日以降1,176時間から960時間に制限されることによる影響を考慮したものだ。時間外労働の上限が下がることにより、輸送力不足が発生するため、より効率的な物流環境が求められるのだ。

物流の2024年問題は、運送業だけの問題ではない。製造業も大きな影響を受ける。製品を製造するための原料や完成製品の輸送にも関わるからだ。そのため、製造業では倉庫業務の効率化に力を入れている。より、効率的な荷物の入荷や出荷が実現できれば、物流の効率化につながるためだ。

そんな中,1月24日~1月26日には東京ビックサイト(東京都江東区)で「スマート物流EXPO(主催:RX Japan)」を開催。花王 SCM部門 デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティスト 田坂晃一氏が「デジタルデータを活用した花王サプライチェーンの最適化・自動化に向けた取り組み」と題して講演を行った。

講演を行う花王 SCM部門 デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティスト 田坂晃一氏 イメージ
講演を行う花王 SCM部門 デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティスト 田坂晃一氏

同氏が説明したのは、2023年3月31日より運用を開始した豊橋工場の完全自動化が可能な次世代新倉庫についてだ。

2023年3月31日より運用を開始した豊橋工場の次世代新倉庫(出典:花王) イメージ
2023年3月31日より運用を開始した豊橋工場の次世代新倉庫(出典:花王)

豊橋工場の新倉庫プロジェクトとは

豊橋工場はビューティーケア専用の工場で、ニベアやビオレなど、少量多品種の製品を生産する。田坂氏は、豊橋のプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーを務めた。

新倉庫は、建築面積が約7,150平方メートルで、倉庫の保管能力は120万梱。自動化設備による入出荷能力は各4万梱/日となっている。ケース仕分けロボット、無人搬送車(AGV)、無人フォークリフトなどの自動化設備の導入により、倉庫内の仕分け作業は固定された作業場所を必要とせず、仕分けロボットとAGVが自在にパレットへの積みつけとパレットからの荷卸しを同時に行う。

ケース仕分けロボット(出典:花王) イメージ
ケース仕分けロボット(出典:花王)
無人搬送車(AGV)(出典:花王) イメージ
無人搬送車(AGV)(出典:花王)

基本的に完全自動化しており、一度倉庫に入庫したら、出庫するまでの流れの中で人は介在しないという。

無人搬送車(AGV)の活用により、多品種製品のパレットへの積みつけと荷卸しが同時にできる自動化を実現。RFIDを利用して製品情報とパレットを連携し、仕分け作業などの自動化や、生産工程を含めたトレーサビリティを強化している。

「必要な分だけ全国各地からオーダーが入ってくると、それに対して集荷していくことになります。基本はロボットとAGVをうまく組み合わせて集荷作業を行い、正パレットと言われる、来た姿のまま出ていくものに関しては何もする必要はないですが、パレットに4段あったときに2段だけ欲しいと言われたら2段だけ切り分けるのもロボットが行います。また、混在パレットもロボットで行っています。それが終わったら荷崩れを防止するため、防装器でラップを巻くというような形になっています」(田坂氏)

これらを実現するため、同社では、本当にその設計で大丈夫なのか、能力が出せるのかというシミュレーションを繰り返し行った。それを1年半くらい行い、設計、AGVの導線、周りの設備のレイアウト、設備に必要な能力などを検討したという。

また、太陽光発電の導入による使用電力の再生可能エネルギー化や、花王独自の技術による廃PET(廃棄処分されるポリエチレンテレフタレート素材)を原料としたアスファルト改質剤「ニュートラック 5000」を使用するなど、環境性能に優れた施設にもなっている。

ホワイト物流のための仕組み

この工場では、工場内のトラックオペレーションを効率化し、ホワイト物流を実現している。これは、出庫システム、バース予約システム(集荷バースや入荷バースの予約を事前にするシステム)、車両ナンバー認証システムを組み合わせて実現している。

「出庫システム、バース予約システム、車両ナンバー認証システムの3つをうまく組み合わせることで、トラックをまったく待たせない拠点を構築していくことなります」(田坂氏)

まず、トラックが工場に入場してきたら、車両ナンバー認証システムでナンバーを読み取る。これは、スーパーなどの駐車場で、事前に精算を済ませておくと、出口では何もすることなく出場できるものと同じものだ。

車両ナンバー認証システム(出典:花王) イメージ
車両ナンバー認証システム(出典:花王)

ナンバーが認識されると、次に、事前に予約したバースに案内される。

予約したバースへの案内(出典:花王) イメージ
予約したバースへの案内(出典:花王)

入庫ではトラックアンローダー(不二技研工業製)を導入しているため、トラックの荷台からパレットをコンベア上に押すことで、入庫が完了する。

トラックアンローダー(出典:花王) イメージ
トラックアンローダー(出典:花王)

「トラックアンローダーにより、フォークリフトなしでも入庫できる形になっています。少しトラックドライバーさんが押してあげないといけないところはありますが、ドライバーさんが来て自分で押して出して帰っていくということができるので、だいたいこれで入庫する時間は1車あたり20分、多くても30分以内には終わらせられるようになっています」(田坂氏)

出庫の場合は、バース予約システムから出庫システムに自動連携され、トラックがバースに移動する間に積み込む荷物がバースに転送される。

「バース予約システムに入った情報から出庫システムに『トラックが着いたよ』という情報を送ります。すると、トラックがバースに来る前に自動倉庫から自動で出庫する仕組みになっています。これによってトラックが工場に入ってきてバースまで3分~5分かかりますが、その時間を無駄にすることなく、出庫します。そして、荷物を積み終わったらすぐに出ていきますが、そのときにも車両ナンバー認証システムで工場を出たという情報も登録されるので、場内管理もでき、ペーパーレスにもなります」(田坂氏)

現在は、倉庫を出た荷物をトラックに積み込むところは自動化されていないが、花王では、大和ハウス、イオングローバルSCM、日立物流、豊田自動織機と一緒に「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業」を行っており、今後は物流施設でのAIを搭載した自動運転フォークリフト等を活用し、トラック運行と連携させることで、荷役効率化・物流効率化・省エネ化に取り組んでいる。

自動フォークリフト(出典:花王) イメージ
自動フォークリフト(出典:花王)

さらに2030年以降の実現を目指し、他社との共同倉庫・配送による共創型輸送ネットワークの構築にも取り組んでいくという。

共創型輸送ネットワークを構築(出典:花王) イメージ
共創型輸送ネットワークを構築(出典:花王)

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