建築現場の生産性向上で人手不足を解消するAI技術

2024年8月26日

建設業および建築業においても、人口減少や少子高齢化による人手不足は深刻化しており、「いかに生産性を向上させるか」が大きな課題となっている。そうした課題を最新のテクノロジーで解決するために、建設会社では他業種の企業との連携によるAIの活用や、これまでに蓄積されたデータをAIに学習させて有効活用しようとしている。また、大手ゼネコンにおいては、すでに生成AIを活用した取り組みも積極的に進めている。

エッジAIによる群制御で建築現場のロボットが連携

鹿島建設とロボットメーカーのテムザックは2024年7月17日、6台の建築ワークロイド「システム天井施工ロボット」の開発を共同で進めていると発表。「システム天井施工ロボット」は、オフィスビルの天井ボード施工のみならず、その前工程である吊りボルトやTバー施工もロボットで実現し、システム天井施工の工程を幅広くカバーするという。

「システム天井施工ロボット」は、比較的小型のロボットを複数台用意し、各工程を担う複数のロボットにそれぞれ別の役割を持たせるテムザックの「群制御」技術が利用されている。それぞれのロボットに搭載されたエッジAI(ロボット側でAI処理を行う)が、「群」として制御されて1つのミッションを実行する。上流工程のロボットが作業中に施工情報を共有し、それに応じて下流工程のロボットが作業内容を調整して施工するという工程間の連携も行われる。

小型ロボットを群で動作させることにより、施工現場の広さに応じたロボットの投入や、搬入出条件が厳しい環境下での利用、一部の工程のみ実施したい場合への対応など、ロボット活用条件・適用範囲の調整が容易に行うことができる実用性を備えている。鹿島建設は、すでに国内の複数のオフィスビル建設現場で試験施工を実施しており、今後も完成を目指した改良が重ねられるという。

(図1)クラウドではなくロボット側でAI処理を行う「群制御」ロボット(出典:テムザックのプレスリリースより) イメージ
(図1)クラウドではなくロボット側でAI処理を行う「群制御」ロボット(出典:テムザックのプレスリリースより)

現場の図面・写真管理をAIで簡素化

竹中工務店は2023年9月に、20年以上蓄積してきた構造設計結果データを学習した「AI建物リサーチ」「AI断面推定」「AI部材設計」の3つから構成される「構造設計AIシステム」を開発し、全面導入したと発表した。

竹中工務店では、構造設計業務に2001年に自社開発した構造設計システム「BRAINNX」を利用しているが、「BRAINNX」で設計された建物約500件、30万以上の構造部材の諸情報を「構造設計AIシステム」に学習させ、「BRAINNX」の機能として実装することで、設計業務期間における計算作業に使う時間を削減するという。

「AI建物リサーチ」は類似性の高い過去事例を自動探索し、最適な構造計画の提案を支援。プロジェクトの初期段階で構造計画提案を支援するため、計画条件ごとに複数の類似建物が提示される。また、「AI断面推定」は部材の断面情報を迅速に決定し、顧客とのプラン検討を支援。構造設計結果を学習したAIが、柱・梁などの配置条件や構造的特徴から必要断面寸法を推定する。そして、「AI部材設計」は時間のかかる繰り返し計算をサポートし、効率的な設計を支援。部材ごとに個別に算定された仕様をまとめ、より合理的に安全性や生産性の高い構造設計をサポートする。

(図2)構造設計結果を学習したAIが、柱・梁などの配置条件や構造的特徴から必要断面寸法を推定する「AI断面推定」(出典:竹中工務店のプレスリリースより) イメージ
(図2)構造設計結果を学習したAIが、柱・梁などの配置条件や構造的特徴から必要断面寸法を推定する「AI断面推定」(出典:竹中工務店のプレスリリースより)

大手ゼネコンは生成AIを活用して業務効率化

一方、最近はさまざまな業界で活用されるようになり、人々の生活においても身近なものになりつつある生成AIも、建設業界での活用が始まっている。建設業界では生成AIを活用することで、長年の課題だった施工前のデザイン提案の効率化やKY活動(危険予知活動)が可能になるため、特に大手ゼネコンでは独自に生成AIを活用した技術を構築して業務効率化に生かそうとしているようだ。

大林組は2022年3月に、アメリカのSRI Internationalと共同で、生成AIによってスケッチや3Dモデルからさまざまな外観デザインを提案できる技術「AiCorb」を開発したと発表。2023年7月から設計支援ツールとして、社内運用を開始している。「AiCorb」は、さらに設計用プラットフォーム「Hypar」と連携することで、生成された外観デザインをもとに必要な各種パラメータを推定して3Dモデルを作成する。スケッチから生成されたデザイン案を入力すれば、すぐに外観デザインとボリュームデザイン(建物の大きさ)を兼ね備えた3Dモデルを顧客に提示でき、設計担当者の業務効率化につなげていこうとしている。

(図3)スケッチから「AiCorb」で生成した外観デザイン案(左)と「Hypar」上の3Dモデル(右)(出典:大林組のプレスリリースより) イメージ
(図3)スケッチから「AiCorb」で生成した外観デザイン案(左)と「Hypar」上の3Dモデル(右)(出典:大林組のプレスリリースより)

鹿島建設では2023年8月に、自社専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を構築し、自社および一部を除いた国内外のグループ会社の従業員約2万人を対象に運用を開始したと発表。「Kajima ChatAI」はマイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを活用し、ChatGPTと同等のAIモデルを社内に構築したもの。特に、入力した情報が外部の学習に利用されないように、鹿島グループ専用の安全な環境を築いている。

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