VRやメタバースを活用した新しい防災訓練・教育
2011年に東日本大震災が発生してから13年が経過したが、今年1月1日には能登半島地震が発生し、8月8日には初めて「南海トラフ地震臨時情報」が発表された。一方で能登半島地震では、東日本大震災以来、学校施設などの耐震化や避難所としての機能強化が進むなど、さまざまな防災教育の実践が生かされている。こうした日頃の努力を継続することが、防災においては重要だ。最近では、従来の防災訓練・教育に最新のデジタルテクノロジーを掛け合わせた、次世代の防災訓練や防災教育が話題になっている。
VRを活用して自然災害の恐ろしさを体験
自然災害は発生時期の予測が難しく、防災意識を保つには防災訓練や防災意識を高めるコンテンツで継続的に学習することが必要だ。そこで注目されているのが、ヘッドマウントディスプレイなどを付けることで、実際には存在しないバーチャルの世界でさまざまな体験ができるVR(Virtual Reality:仮想現実)技術を活用した災害体験だ。
TOPPANは、ヘッドマウントディスプレイ(VR用ゴーグル)で、地震や津波、風水害の3つのコンテンツが体験できる「災害体験VR」を提供している。ヘッドマウントディスプレイを使うことで、リアルで高精度な災害のVR映像を見ることができるため、ブラウザで映像を見るだけよりも没入感のある体験ができる。
TOPPANでは、これまで自治体や専門家とともに「リアルハザードビューア」などの防災コンテンツを製作してきたが、各地の防災イベントにおける体験者アンケートから、VRでの防災訓練はリアルに近い体験が提供できるため、頭で理解するだけではなく記憶にも残りやすいことが分かってきた。とはいえ、各自治体の土地の特性に基づいた災害時のVR映像はオリジナルでの製作が必要で、膨大なコストがかかることから、VRを活用した避難訓練は大きな自治体でしか実施できない。
そこで「災害体験VR」は、全国で使えて誰にでも手軽に導入できる啓蒙コンテンツとして開発された。目的は、自治体における住民への災害教育を支援し、防災意識の向上に貢献することだ。また、コンテンツは映像と効果音のみで構成されているため、母国語が日本語でない人も体験することができ、防災意識を高めることができる。

(図1)津波体験コンテンツの一例(出典:TOPPANホールディングスのプレスリリースより)
市民がアバターとしてメタバース上の水害対策訓練に参加
近年では、現実社会で行われる人々のさまざまな活動を、インターネット上の3次元仮想空間で再現するメタバース技術も、防災訓練のインフラとして活用されるようになってきた。その一例として、NTTコミュニケーションズは東京理科大学の協力のもと、水害ハイリスク地域の防災・減災の実現に向けた市民参加型の「デジタル防災訓練」の実証実験を、2022年4月から2023年3月まで実施した。
この実験では、国や自治体が指定する水害ハイリスク地域をデジタルツイン上で再現し、発災前後のシチュエーションを市民がアバターとして体験する。デジタル空間において自身の行動をシミュレートしてもらうことで、避難行動の可視化、防災意識の向上、安全に避難できる施策の検討を行った。水害ハイリスク地域のメタバースは、国が提供するオープンな都市空間データや独自データを元に、行動の際に目印となる店舗や看板までが3DのCGでリアルに再現されたデジタルツイン上に作られた。
そのメタバースの街に市民がアバターとして参加し、水害が起きる前後の行動をシミュレート。そこでの行動データを、NTT コミュニケーションが分析している。これにより、市民の避難行動および発災時のリスク箇所を可視化。さらに、「デジタル防災訓練」への参加前後の、水害に対する防災意識・行動変容に関する情報の収集や安全に避難できる施策が検討された。

(図2)デジタル防災訓練の実施イメージ(出典:NTTコミュニケーションズのプレスリリースより)
デジタルを活用した子供向けの防災教育
日本では行政が、台風や地震などの自然災害に対して不安を持つ市民の生活を、さまざまな面から支えようとしている。一方で、近年の気候変動によって自然災害が増加し、その被害も拡大している中、行政の力だけでは限界を迎えつつある。これからは、一人ひとりの防災意識の向上が必要だが、特に自然環境や社会環境が目まぐるしく変化する世界で生きていく子供たちには、デジタルを活用してさまざまな課題を解決する力を身につけることが求められている。
愛知県刈谷市の市立依佐美中学校では、デジタル防災の社会実装を進めるRainTechとともに、デジタル防災・防犯教育プログラム「デジ防マップ」の実証実験を2024年4月〜7月まで行った。子供たちの防災力とデジタルリテラシーの育成を目的とした「デジ防マップ」は、自分の住んでいる街を舞台に、オリジナルの防災・防犯マップを作る、地図作成アプリを使ったデジタル防災・防犯教育プログラム。GIGAスクール構想(生徒1人に1台のコンピュータネットワークを整備する文部科学省の取組み)で小中学生に配布されたタブレットを活用し、これからの子供たちに必要な探究心やデジタル活用の知識、課題解決能力、プレゼンテーション能力を同時に育むことを目的としている。
実証実験では、専門家による講義(座学)と、ネット調査・街歩きでの実践(実技)を組み合わせたハイブリッド型の教育が実践された。実証実験終了後もアカウントは1年間有効で、その間は写真やコメント投稿の機能は無料で使い続けることができる。

(図3)「デジ防マップ」の概要(出典:RainTechのプレスリリースより引用)
その他にも、リアルタイムに津波の浸水状況と建屋等の被害推計を行う「リアルタイム津波浸水・被害推計システム」(東北大学・国際航業・エイツー・NEC共同開発)やデジタルツインを構築した「3次元ハザードマップ(国際航業)」等、様々な防災テックソリューションが提供されていることから、日頃の防災教育や防災訓練の参考にしてもらいたい。
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