カーボンニュートラル時代の電力業界の現状と展望
電力業界の最新市場動向
電力は、2016年4月に小売りが全面自由化され、その後も別々の電力系統間をつなぐ送電線である連系線の利用ルールが見直されたことにより、公平性を確保しながら地域間での電力取引が活発となるような方式が採用されました。さらに、新たに電力市場へ参入した小売業者でもベースロード電源を調達できるようベースロード市場が創設されるなど、電力システム改革が行われてきました。ベースロード電源とは、原子力や石炭火力のように発電コストが低く、供給が季節・時間帯を問わず安定している電源のことで、市場が創設される前は大手電力会社が開発・販売を行っていました。
電力業界の小売り全体に占める新規参入者の割合は、2023年8月時点での販売量ベースで17.5%となり、2021年8月の22.6%をピークに減少傾向が見られます。
一方、中東情勢の悪化により、2024年時点で海上交通の要衝である紅海の通航量が半減し、さらに干ばつや水位低下によりパナマ運河の通航量も4割減少しました。これにより、タンカーの航行数が減少し、輸送費が高騰しています。化石燃料などの原材料は海運が主要な輸送手段となっているためエネルギーの安定供給に影響が出る恐れもあります。こうした事情から、電力業界では、カーボンニュートラルと両立したサプライチェーン全体でのセキュリティ確保が重要な課題となっています。2022年に急騰した石炭や天然ガスの価格は下落したものの、現在でも2010年代後半の2~3倍の価格水準が継続しており、燃料価格の今後の見通しは依然不透明になっています。
また、世界的な脱炭素化の進展によりLNG(液化天然ガス)などの上流部門への投資が減少するといった課題に加え、「GX(グリーントランスフォーメーション)」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の進展により今後の電力需要が増える可能性も指摘されています。
GXとは、石炭・石油・天然ガスなどの化石エネルギーを中心とした現在の産業構造・社会構造を、太陽光発電や風力発電のようにCO₂を排出しないクリーンエネルギー中心の社会へと転換させる取り組みのことをいいます。具体的には、工場や事業所で使用する電力を水力・風力・太陽光などの再生可能エネルギーに転換することや、家庭の古い冷暖房機器を効率の良いヒートポンプ式に更新することが挙げられます。
日本では、2030年までに温室効果ガスを46%削減し、さらに2050年までにCO₂の排出量を実質ゼロにする削減目標を掲げています。また、GXはカーボンニュートラルへの対応だけではなく、エネルギーの安定供給の面でも注目されています。
水素発電、風力発電とは
水素発電とは、火力発電に用いられる石炭や天然ガスに代わる燃料として水素を使用する発電方法のことです。水素などの燃料を燃焼させてガスタービンを回転させる「ガスタービン発電」、水素などをボイラーで燃焼させ蒸気でタービンを回す「汽力発電」、水素と酸素の化学反応を用いる「燃料電池」の3種類の発電方法があります。
身近な水素発電の例として、燃料電池を用いた自動車があります。燃料電池は、水素と酸素の化学反応で直接電気エネルギーを取り出して動力とするものです。その他、自動車メーカーなどで研究開発が進んでいる水素エンジンがあります。燃料電池は水素の化学反応を利用したものですが、水素エンジンは気体水素や液体水素自体を燃料としています。
水素は燃焼させても有害物質やCO₂のような温室効果ガスが発生せず、排出されるのは水(H₂O)だけです。水素発電は燃焼速度や性質に関する課題があり、実用化されているのは一部ですが、水素発電は化石燃料を用いた火力発電に代わるクリーンエネルギーとして、サステナブルな社会の実現を目指すうえで重要視されている分野です。
風力発電とは、その名の通り風の力で電気を作り出す発電方法です。風力発電機と呼ばれる大きな風車を風の力で回転させ、その動力をもとに発電する仕組みになっています。風力発電では、発電の過程でCO₂が排出されません。また、風力発電は燃料が不要であるため、発電時にはCO₂だけではなく排気ガスや燃えカスなども発生しません。風力発電は環境負荷の少ない発電方法として注目され、ヨーロッパをはじめさまざまな国が導入数を増やしており、世界規模での課題となっている地球温暖化対策に役立つと考えられています。
電力業界の未来
電力業界では、電力小売全面自由化を契機に多くの企業が市場に参入し、競争が活発化しましたが、依然として旧来の電力会社の優位性は揺らいでおらず、大手の電力会社が高いシェアを占め続けています。
今後は、発送電分離が進み、電力小売自由化との相乗効果で、電気業界に参入する企業がますます増えていくことでしょう。発送電分離とは、電力の発電と送電におけるネットワークを分けて、新事業者を加えた電力事業者の事業を平等にする動きのことです。発送電分離が進めば、電力小売自由化と同じような流れで企業間において価格競争が生まれ、消費者は安い料金で電気を利用できるようになると予想されます。
また、カーボンニュートラルに向けた動きが顕著になってきているため、今後は、各企業で再生可能エネルギーを活用した発電へと切り替える取り組みが求められるでしょう。
ミライト・ワンのソリューションに関するご質問、ご相談など
ございましたらお気軽にお問い合わせください。
最新の特集

モビリティ/ロボティクス