小規自治体がテクノロジーを活用し、オーバーツーリズムを抑制

2025年12月1日

自治体のテクノロジーの活用は、大規模な都市だけではなく、小規模都市や過疎地でも行われ効果を挙げている。ここでは、3つの事例を紹介する。

宮古島は小型電動モビリティで交通渋滞解消と脱炭素化を実現

沖縄県宮古島市は、観光・移動・交通政策の観点から小型電動モビリティを活用している。同市は2024年には年間約120万人の観光客が訪れた人気観光地だ。レンタカー利用が観光移動の主流となっているが、レンタカーや駐車場不足、交通渋滞、事故の増加などが課題となっている。
また、宮古島市は2008年に 「エコアイランド宮古島宣言」 を行い、再生可能エネルギーと環境共生型社会を目指している。2023年11月には、環境省が実施する「脱炭素先行地域」に選定されており、エコアイランド宮古島をテーマに地域の脱炭素化に向けて取り組んでいる。このような背景から、宮古島では、小型電動モビリティプロジェクトを推進し、島内の移動に係るコストや環境負荷を低減し、利便性を向上する効果を狙っている。

2013年2月には、本田技術研究所および東芝と、小型電動モビリティおよび電力供給装置の活用に係る社会実験の実施に向けた検討および協議に着手する協定を締結。小型電動モビリティや電力供給装置等の導入、活用、運用管理に関する情報収集等を行うことにより、社会実験を通じた宮古島市のエコアイランド化を推進した。

そして2025年10月25日には、地方の「交通空白」解消のために安全にこだわった電動モビリティを展開するBRJが、宮古島市で、電動二輪、三輪モビリティシェアリングサービス「TOCKLE(トックル)」を活用した官民共創型の実証実験を開始した。

(写真1)TOCKLE(出典:BRJ) イメージ
(写真1)TOCKLE(出典:BRJ)

今回の実証実験では、小型モビリティで既存交通を補完し、利用データを分析することで、移動ニーズの把握や地域交通政策への反映を目指している。実証実験は2026年1月31日まで行われる。

また、沖縄トヨタ自動車は、 宮古島市や宮古島観光協会をはじめとした地域の関係者とともに設立した「宮古島小型モビリティ推進プラットフォーム」が、国土交通省 令和7年度「共創モデル実証運行事業」に採択された。 同プラットフォームでは、「TOCKLE」を活用し、観光客や市民にとって身近で楽しく新しい移動手段を提供する。

この事業では、交通×観光の融合 宮古島観光協会と連携し、TOCKLEのポート周辺にある飲食店や観光スポットを紹介。パンフレットやSNSで紹介することで、移動そのものが「旅の体験」となるよう、食・景(景観)・体験を組み合わせた"コトづくり"を展開する。また、体験乗車会や安全啓発活動を実施し、観光客・市民双方に交通ルールを浸透。夜間走行制限や速度制御機能など、安全設計を重視した運用を行う。

さらに、路線バスのほか、デマンドバス「チョイソコみやこじま友利線」や宮古島ループバス等の交通施策との結節による「徒歩+小型モビリティ+公共交通」のシームレスな移動環境を実現するという。
初年度は月間約480回の利用を想定し、1人あたりの移動・消費行動を可視化。観光客の回遊行動を促し、飲食・体験・小売など地域消費の拡大を検証する。また、データ分析を通じて交通需要を可視化し、将来的な公共交通再編やモビリティ政策への応用を目指すという。

白川村は混雑見込や渋滞情報を公開し、オーバーツーリズムを抑制

岐阜県白川村では、ゴールデンウィーク・お盆・紅葉シーズンなどに、駐車場待ち・車列渋滞が慢性的に発生。こうした交通混雑・観光集中の影響をオーバーツーリズムの観点から捉え、旅の計画段階(旅マエ)から来訪者に配慮を呼びかけ、混雑回避を促す仕組みとして「白川郷すんなり旅ガイド シラカワ-ゴーイング(SHIRAKAWA-Going)」というWebサイトを立ち上げた。

このサイトでは、駐車場利用データ・過去混雑実績等をもとに、3ヵ月先まで「混雑見込み」を表示。また、村内の主要道路・駐車場付近のライブ映像を配信し、現在の渋滞・車列状況をリアルタイムに確認することが可能になっている。

(図1)混雑見込み(出典:白川村) イメージ
(図1)混雑見込み(出典:白川村)
(写真2)駐車場付近のライブ映像(出典:白川村) イメージ
(写真2)駐車場付近のライブ映像(出典:白川村)

同村が2024年12月〜2025年1月にかけて実施したアンケート調査では、88%が「混雑予測カレンダー」を見て訪問日や時間を変更したいと回答。92%が「次回、白川郷訪問時にはシラカワ・ゴーイングを参考にしたい」と回答した。これにより、シラカワ・ゴーイングの「混雑予測」機能が旅行者の行動変容を促し、混雑回避につながる可能性が高まっていることがわかったという。

式根島はスマホで遠隔医療を実現

式根島(東京都)は、東京から高速ジェット船で約3時間の距離に位置する離島で、人口は500人に満たない。島内には診療所があるが、眼科専門医が常駐していないため、眼科診療・緊急眼科対応に課題があった。船で10分の距離にある新島の診療所では、2、3ヵ月に一度、毎回2日間の眼科診療日が設けられているものの、急な対応は難しかった。
そこで、同島では、慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業 OUI Incの「Smart Eye Camera(SEC)」を導入。SECは、いつでもどこでも簡単に眼科検査ができるスマホアタッチメント型の医療機器で遠隔医療に活用されている。

(図2)「Smart Eye Camera(SEC)」(出典:OUI Inc) イメージ
(図2)「Smart Eye Camera(SEC)」(出典:OUI Inc)

SECでは、現地で医師や看護師が、患者の角膜・水晶体・眼底などを撮影。クラウド経由でデータ送信し、医療機関や大学病院の専門医がアクセスし、白内障・緑内障・糖尿病網膜症などの所見を診断する。

式根島では、SECの導入により、診療の利便性が飛躍的に向上し、スタッフや患者からも継続的な運用を望む声が寄せられているという。眼科専門医が迅速に遠隔で診断を行うことで、これまで「わからない」で済ませていた症例に対して、専門医に確認できるため、患者へ説明できるようになり、安心感の向上に繋がっている。Smart Eye Cameraの導入により、離島地域における眼科診療の質が向上し、迅速な診断と適切な対応が可能になったことが明確となり、今後のさらなる普及と運用の継続が期待されている。

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