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観光DXで変わる大分の旅:データで描く新時代の地域経営

2025年12月15日
話し手
  • 大分県 商工観光労働部
  • 部長
  • 小田切 未来
(写真)大分県 商工観光労働部 部長 小田切 未来(おだぎり みらい)氏
(写真)大分県 商工観光労働部 部長 小田切 未来(おだぎり みらい)氏

──まず、小田切部長の自己紹介をお願いします。

小田切氏:もともと、東京都出身です。大学院で公共政策を学んだ後、経済産業省でキャリアをスタートしました。いくつかの部署を経験しながら、政策づくりの現場でどっぷり政策に向き合ってきました。2024年から、IPA(情報処理推進機構)のデジタル基盤センターで副センター長を務めており、ここでは、デジタル基盤構築に関する仕事を担当していました。また、AIセーフティ・インスティテュートで事務局次長を務め、AIの安全性の枠組みづくりにも関わっていました。そして、今年(2025年)7月から、ご縁があって、大分県の商工観光労働部長を務めています。

──観光DXの全体像について教えてください。着任後どのような方針で進めてこられたのでしょうか。

小田切氏:大分県では観光データを一元的に集約・可視化・分析できる仕組みづくりを行っており、「大分版DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」 の構築を進めています。国・県・DMOなどの関係組織が持つデータを集約し、生成AIを使って分析・予測を行うことが特徴です。これまでの観光施策は「勘と経験」に頼る部分が大きかったのですが、今後DMPを活用することにより、観光客の行動・消費動向・満足度などをリアルタイムに把握し、データドリブンで政策判断ができるようになります。SNSの発信傾向やOTAサイト(着地型旅行商品販売サイト:テッパン!おおいた)の予約動向も反映することができるため、ターゲット設定や情報発信の最適化にもつながります。つまり、観光DXの目的は単にデジタル化することだけではなく、「データを使って観光地経営を賢くする」ことだと考えています。

──DXを進める中で、現場の反応や実際の取り組みにはどのような変化が見られますか。

小田切氏:現場の意識は確実に変わってきています。宿泊施設では 自動精算機やオンライン予約システム、清掃ロボットの導入が進み、業務の効率化が実現しています。県としても国の補助に上乗せし、導入経費の3分の2を支援する制度を設けています。
一方で、「何から手をつけたらよいか分からない」「人手が足りない」という声も少なくありません。そのため、県では DX・デジタル化の無料相談窓口(最大4回) を設け、外部専門人材が伴走支援しています。由布市ではAIカメラによる交通量解析を行い、10分ごとに混雑状況をアプリやカーナビ等で配信。こうした実例を県内に広げていくことで、徐々に"DXの成功体験"が積み重なっていると感じます。

──DXは、観光客の行動やニーズの変化にどのように活かされているのでしょうか。

小田切氏:コロナ禍を経て、旅行の形は大きく変わりました。少人数・個人旅行、モノ消費からコト消費へのシフトが進み、予約・情報収集はオンラインが主流になっています。そこで私たちは、DMPで得られたデータをもとにターゲットを細かく分類しながら、情報発信を展開することも視野に入れています。例えば、温泉よりも自然体験を好む層には、登山やサイクリングなどのアクティビティをレコメンドする仕組みです。
また、観光客が旅の途中で感じる不便を減らすために、多言語対応・キャッシュレス決済・リアルタイム混雑情報などを整備し、旅前から旅後までシームレスにサポートできるよう取り組んでいきたいと考えています。DXの力で「体験の質」と「利便性」の両立を目指しています。

──データ連携の将来像と、九州全体での広域連携について教えてください。

小田切氏:私が注目しているのは、欧州で進む「データスペース構想」です。その中で、EONA-Xというデータスペース(国境や分野の壁を越えた新しい経済空間、社会活動の空間)があるのですが、このデータスペースは、交通・観光などの移動データを国や企業をまたいで安全に共有できる仕組みで、共通のモビリティ・データ基盤を構築しようというものです。大分又は九州でも、将来的には宿泊・移動・体験データを横断的に活用できる環境をつくっていくことが望ましいと考えています。
九州では、一般社団法人・九州観光機構が中心に、生成AIを活用した旅行プランを提案する仕組みも進んでいます。
さらに、県庁では大分と愛媛との海上ルートを活かした広域観光なども推進することを想定しています。

──DX推進の中で特に注力しているテーマは何でしょうか。

小田切氏:まずは 誘客の精度を高めることです。データに基づいてターゲットを絞り、確実に届く形で発信する。たとえば、SNS広告をAIで最適化し、県庁の施策を推進するなどもありえます。
また、富裕層マーケットの育成も重要です。データを分析すると、1泊2日で帰る旅行者が多い。そこで2泊3日や3泊4日の周遊を促し、単価を上げていく戦略が重要です。また、今後は、富裕層も訪れる魅力的なホテル・旅館の整備や、特別体験型プログラムの造成など、「質の高い滞在」を生み出す仕組みを推進していくことも重要です。
もう一つは、住民や事業者がDXの恩恵を実感するための可視化です。観光による経済波及効果をデータで示すことで、地域にとっての観光の意義を"数字で語れる"ようにしたいと考えています。また、他県のように、VRで文化財の魅力を発信する事例も参考にしていきます。

──最後に、観光DXが進んだ10年後の大分をどう描いていますか。

小田切氏:10年後の大分は、自然・文化・デジタルが融合した「ウェルビーイング県」になっていると思います。観光客は混雑を避け、自分に最適化された旅を体験し、地域の人々も観光の恩恵を実感できる。
DXによって観光が地域経済の主軸となり、データを共有・連携することで関係者全員が成長できるエコシステムを作りたい。要すれば、観光を「地域の未来を創る基盤」にすることが、私の使命だと思っています。

──大分の自慢の土産、観光地の魅力をお願いします。

小田切氏:数多く人気なものがありますが、例えば、かぼす、関あじ・関さば加工品、豊後牛、乾しいたけ、からあげなどが挙げられます。これらはオンライン販売との親和性も高く、旅後の消費にもつながります。訪れた瞬間だけでなく、「帰った後もつながる観光」を実現すること。大分は、データと人の温かさで、何度でも訪れたくなる県を目指しています。大分県の魅力は、こちらのサイトでも紹介しているので、ぜひ、見てください。 大分県地域資源素材集『OITA ESSENTIALS』
https://oita-essentials.com/

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